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終戦の日。/天使たちの探偵~SideStory [ぶいろく系]

今日は、69回目の、終戦の日でした。

ろくに更新もしていないのですが、SP関連とGROUND ZERO関連を中心に、パス請求などを頂いており、恐悦至極でございます。

いつか(?)今の仕事の忙しさから解放されたら、書きたいことはたくさんあるので、サイトは維持管理(?)していきますので。
いや、そんなご質問も頂いたので。わたくしは、ネットの世界の片隅で、細々と生息しておりますので、気が向かれたときにでものぞいてみてやって下さいませ(苦笑) 

そんな前置きはおいておきまして(?)

毎年、この時期にはこの小説をここで掲載させていただいておりますが、成瀬は、戦争を知らない子供です。

しかし、成瀬父は、終戦の年に生まれた子供です。
っていうか、終戦の日から数えて、10日も経たずに生まれた子です。


だから、父の話すギブミーチョコレートは、まぢで、西宮浜のとこに駐留していた米兵さんとの間で交わされたギブミーチョコレートで。
 六甲付近の山幹が、あんなに広い道路なのは、実際あそこを滑走路代わりにして、米機が降りてきたこともあるからだったりと。

今では、嘘のような、本当の話を、折に触れ父が語ってくれたことが、今日という日には思い出されます。

といっても、実際父は戦争経験者ではなく、その子供である私も、もっと戦争は遠いものでしかないのかもしれません。
 ただ。
戦争を知らない人間に、本当の意味で戦争を知ることは出来ないと思いますが、知ろうとする努力が、同じ過ちを繰り返さないため、この国に生まれた人間としての、唯一の償いと考えるので、成瀬は毎年この時期だけでも、きちんと、このことと向き合う時間を作ろうと思っております。


っていうか、子供のときから、そうだったので、この時期必ずテレビとかで流れてるあれも、あながち無駄ではないと思うのです。

忘れないこと、考えること。
そして、今、自分の考えを、自分の気持ちで、選択することの出来る立場の自分たちが、いかに幸せなことなのかを胸に、二度と戦争という名の悲劇が繰り返されないことを、切に祈ります。

毎年この作をこの時期に掲載させてもらってるので、新作でなくて、大変恐縮ですが。。。

そして、初見の皆様へは、このブログの本家「出せない手紙」サイト内掲載の小説「天使たちの探偵」シリーズから、そのままの設定で書いておりますので、どこぞの方々と、同じような名前の人が出ていても、それはあくまで、フィクションでございます(待てコラ(苦笑))


ちなみに、軍用施設になりかわっていた甲子園のグラウンドには、当時、もう二度と、そこで野球なんかできるわけないだろうと思えるほどの焼夷弾が、突き刺さっていたそうですが、今そこで、今年も変わらず夏の甲子園が行われていた奇跡に、感謝です。

そして、あの大きな甲子園が、シェルターのように、人々の命を爆雷から守ったこともまた、この地に住む人間が知っておかなければならない事実だと、思っております。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここから下。



「天使たちの探偵」~SIDE STORY~

= 逝く夏 =


「なんだかなぁ~」




液晶画面の向こうで、試合を止めた審判の動きに促されるように、カメラは引きのポジションをとり、にわかに試合が止められた理由が映し出された、球場奥の電光掲示板をすっと撮してから、得点ボードの上部に設置されたアナログ時計で、カメラは止まった。
 時計の針が指す時刻は、ちょうど、正午少し前だった。

 いや、あんたのその台詞の方が、”なんだかなぁ~”って言いたいくらい、聞かされた方の気が滅入りそうな、力の抜けた言葉を発した坂本に、自分の机でノートパソコンを広げていた長野が、上目使いに彼に向かって非難がましい目を向けたのだが。
 いかんせん、普段より人様からのどんな視線であろうとも、それをもろともしない人物である坂本は、両膝に肘をついて顎を支えながら、ため息を一つついた。

ただし、誰がどう見ても。
大きなため息をつきたいのはこの場合、明らかに、長野の方である。



そもそも、長野探偵事務所の室内に設置された、来客用のソファセットであることを正しく理解しているのか、いないのか。

まかり間違っても、探偵を依頼するつもりのない人間4人が、そこに腰を下ろして、あまつさえ、雁首そろえてテレビの画面を眺めている光景に、怒る以前に、半ばあきれるのを通り越して、あきらめの境地で、そんな彼らを黙って見ていた長野だったが。
 さすがに、人の仕事のじゃまをせず、静かにテレビを見ている分には、まだ許しもするが、そんな、気の抜けた台詞を聞かされ、ついでに、ため息までも落とされたのでは、たまったもんじゃない。

 大体、暇を持て余している、夏休み中の学生二人、・・・である、准一と健だけならいざ知らず。

人の仕事中に、その仕事場である探偵事務所に、用もないどころか、自分たちだって、仕事中であるはずの人間二人、・・・である、坂本と井ノ原までもが集まってきて、しかも、仕事をしている人間が目の前にいることを知っていて、なおかつ、夏の全国高校野球大会を、テレビ鑑賞しているのは、それはいかに? 
と、聞きたくなる所行である。
 いや、ただ単に、夏期休暇で暇な学生二人は、長野の事務所の雑用アルバイト(といっても、無給でいいそうだが)にやってきて、仕事中であるはずの二人は、昼休みのコンビニ弁当を、暑くて狭い車内で掻き込むのがイヤだったからという理由だけで、長野の事務所を食堂代わりに使っているのである。

で、そのついでに、仕事中の長野そっちのけで、4人で昼ご飯のコンビニ弁当をつつきながら、野球観戦まで始めてしまっただけのことなのではあるが。


普通は、しないだろう?
という突っ込みは、誰一人として、入れなかったようで、現在に至っている。

テレビの画面には、ちょうど高校球児達が、その動きを止め、スタンドを埋め尽くす両校の応援団も、手にした楽器類を椅子に置き、立ち上がろうとしているシーンが映し出されていた。


坂本の”なんだかなぁ~”は、その動きに対しての、感想だったらしい。



「やっぱり? 僕もさぁ、高校野球好きだから、毎年見てるけど、なんか違和感ありありなんだよね~、これって」



暑いときは食欲がわかないらしい健は、坂本の向えのソファーに腰を下ろし、比較的するっと入るとのたまった冷やし中華の、水色のプラスチック容器を片手に、箸で錦糸卵を捕まえながら、彼の意見に賛同するように、そういった。

が、それとは対照的に、准一は、画面の向こうの人たちと同じように、手にした箸を弁当の縁にきちんと置いてから、試合中だった選手や甲子園球場に集まる人々が今からやろうとしていることに倣おうとするつもりだったらしく、坂本と健の意見に、驚いたように、目を丸くして顔を上げた。

しかし、それに気づかず画面の向こうに目をやったままの二人に苦笑した井ノ原は、そんな准一に助け船を出すように、口を開いた。



「まあねぇ、毎年どんな試合状況だろうが、8月15日だけは、正午になったら突然コレ、っていうのも、どうなんだろう? って気は、しないでもないけど。
けど、こうでもしないと、最近は、今日が何の日か、忘れてる人多いしね。
ホントは、忘れちゃいけないことなんだから、いいんじゃないの?
多少、違和感ありありでも」

そんな井ノ原の意見に、
「そうかぁ~? 」
とでもいいたそうな坂本と、実際、

「でもさ、コレやってる人みんなが、ホントに心から気持ちを込めてやってるとは、僕は到底思えないけどねぇ~」

なんて、辛辣な意見を口にした健を見て、准一は、口を開いた。



「終戦の日に、黙祷を捧げることが、そないに違和感感じることなんか? 」



毎年、夏の全国高校野球大会が行われる甲子園では、終戦の8月15日の正午に、必ず試合を中断し、全員起立して、半旗の掲げられたスタンドを見つめながら、試合開始とは違った意味合いのサイレンとともに、誰もが黙祷を捧げる。

69年前に、その命を、戦争という悲劇で失った人々の魂が、僅かであろうとも、どうか安らかであれと、その思いを胸に、一分間の黙祷を、捧げる。


それは、生中継される高校野球の不文律でも、あった。

ソファーセットのテーブルの上に、コトンと手にした弁当箱を置いてから、うつむき加減で、准一は、言葉を続けた。



「僕かて、終戦の日の正午に、甲子園で黙祷を捧げることが、戦争で亡くなった人みんなの救いになるなんて思わへんし、その黙祷を捧げる人みんなが、その意味を全部理解しとうなんて、思てへんよ。
けど、意味があるとかないとか、そういう以前に、なにかやれることをやろうとする気持ちが、一番大事なんやと思う。
その球場に集まる人間全部やなくても、そのテレビを見てる人間全部やなくても、その中の何人かでも、ほんまに心からの黙祷を捧げてる人間はいてるはずやねんから、それを否定するんは、間違うてると、・・・僕は思う」

常は、さほど饒舌ではない准一の、静かな声で紡がれる、至極真っ当な意見を前に、それを聞かされた3人は、瞬時に押し黙った。

とたん、微妙な空気が流れる。


「あ、や、・・・別に否定してるってわけじゃねぇけど、・・・な」

「そうそう。いや、なんか、さっきまでふつーに試合してたのに、暗黙の了解みたいに、突然当たり前のように始まるからさ、ちょっと異様だなぁ~っていうか、そんな気がしただけで。
それが悪いっていってるわけじゃないし」
 「そうだよ、岡田。
コレって、なんか恒例行事みたいになっちゃってるから、ちょっと違和感感じるけど、・・・だからって、とりあえずやっておけばいいみたいに、ないがしろにされてるわけでもないからさ、ね」


その場を取り繕うように、矢継ぎ早なフォローを必死になって入れる3人に、言った准一の方が、あわてて顔の前で、両手を振った。



「や、あの、・・・僕も、なんかきつい言い方して、ごめんなさい。
そんなつもりあれへんかってんけど、多分僕は、大阪にいてたから、毎年夏は、コレが当たり前やって、・・・当たり前や思ててんけど、けど、なんかそれ否定された気がして、つい、あんな言い方してしもて。
ホンマ、ごめんなさい」


そんな、座っていたソファーから、腰を浮かさんばかりの准一の勢いに、謝られた3人も、のんびり座っていることができず、いやいや、俺達の方こそ。
 いや、そんなそんな。

と、どこまで、お互い腰が低いねんってつっこみたくなるくらいの4人の謝罪合戦は、見ていて一層、・・・・・・奇妙だった。



「もう、それくらいにしたら? 」



ソファから一人離れた椅子に腰を下ろしていた長野の声に、全員が、そちらを向いた。



「3人が言いたいことは、わかるよ。
形だけの黙祷なんて、ない方がマシって言いたいんでしょ?
テレビの中継が入ってるだけに、余計パフォーマンスっぽく感じるのも、致し方ないことだと思うし。
実際球場で、黙祷の間も、携帯片手にメール打ってる子だっていたし。
でも、そうじゃない人間の方が多いんだから、そんな穿った見方をしなくても、いいんじゃないかな?
それって、真摯に、それと向き合ってる人たちに対して、すごく失礼だよ」

長野の簡潔な言葉に、3人はぎこちなくうなずくしかなかった。
それを見てから、長野は准一に視線を向けた。



「准一の言いたいことも、わかるよ。
っていうか、そういってくれる人間が一人でもいる限り、この瞬間が無駄じゃないって俺も思うし、・・・できれば、一人でも多くの人間が、そう思っていて欲しいって、心底思う。
ただ、祈りを捧げる行為は、誰かに強制されてやるもんじゃないし、まして、必ず、この日のこの時間にしなければいけない、ってものでもない。
だから、その行為の是否を問うのは、違うんじゃないかな?
黙祷を捧げたいと思う人は、そうすればいいし、そうじゃない人は、しなければいいだけのことでしょ?
人に押しつけたり、押しつけられたりしてやることじゃないよ。
・・・亡くなった人を思いやれる気持ちを持った人間が、生きてる人間を思いやれないなんてことは、ないはずだからね」

小首を傾げるようにして言った長野の顔をじっと見ていた准一は、もう一度だけ、「ごめんなさい」と、謝罪の言葉を口にした。

言われた長野は、首を左右に振って、「俺に謝る必要はないよ」とだけ、答えた。

そして、座っていた椅子から立ち上がると、ふわっと笑って、4人に言った。



「今のは、お互いの言葉に、ちょっと配慮が足りなかっただけ。
どっちも正しかったけど、どっちも少しだけ、間違ってた。
その結果として、どっちもが傷ついた。
・・・戦争も、そうなのかもね。
ただ、今みたいに、すぐにそれに気づけたら、あんなに多くの犠牲を出さずにすんだんだろうけど。
それがとても、残念だね」

どちらも正しくて、どちらも少しだけ間違えただけでも、結局はどちらもが傷つく。


たしかに、戦争というモノも、その延長線上にあったのかもしれない。

 誰もが、負けるとわかっていて、戦争を始めたわけではない。

自国を焼き尽くすために、多くの人間の命を失わせるために、戦争をしようとしたわけではない。

ただ、強くなりたい。

列国に脅かされない、そんな強い国になりたい。

そう思ったことが、それほど罪なことだったのか?
と、問われれば、そのすべてを否定することは、難しいことなのかもしれない。

 それでも、失われたものは、大きすぎたけれども。


椅子からたった長野は、ゆっくりと歩を進めて、自分の事務机の前に回ってきた。

そして、ソファーセットでテレビを取り囲むように座っていた4人を見回してから、すっと右手の人差し指で画面を指していった。


「ほら、はじまるよ。
やる、やらないは、自分で決めれば、いいけどね」

その声に、ぐるんと顔の向きを変えて、長野が指さしたテレビの画面を見つめると、ちょうど12時を指した時計が映し出され、次の瞬間、
「ウゥーン」
というサイレンが、この一時だけ、音のやんだ甲子園球場に、こだました。


一分間の黙祷。


そこにどんな意味があるのか。

意味なんて、ないのかもしれない。
けど、意味はあると、信じていたい。

そう思う人間が、今、心からの黙祷を捧げる。

失われた命の平穏と、これから先の平和を祈る。


目配せ一つなかったのに。

それでも、まるで図ったかのように、怖いくらい同じタイミングで、音もなくソファから立ち上がった4人の姿に、ふっと表情をゆるめた長野は、ゆっくりとその瞳を閉じて、黙祷を捧げた。

そして、立ち上がった4人も、それぞれの思いを胸に、同じように、目を閉じて、頭を垂れた。
 そこだけ、時間が切り取られたような静寂が、一瞬にして戻ったことを伝える、テレビからの音声に、その場で黙祷を捧げていた5人が、目を開いて顔を上げた。



お互いに顔を見合わせた4人は、誰からともなく、照れたように笑いあって、ソファに座り直し、中断されていた昼食に戻ろうとした。


が、同じように座っていた椅子に戻りかけた長野だけが、肩越しに4人を振り返り、言った。

「でも、ま、俺も、なんだかなぁ~って感じだし、違和感ありありって感じが、ものすごいするんだけどね」



その長野の言葉に、4人の「えっ? 」って、驚愕の声が、重なった。


だってそれは、先ほど長野が語ったことをすべて、根底から覆す言葉に、他ならなかったから。

だから、誰もが、驚きのあまり、再び手にした箸を、取り落としそうになったのである。
 けれども、そんな4人の様子に目もくれない長野は、すとんと自分の椅子に座り直すと、呆れたように4人を眺めていった。

「だって、人の仕事中に、人の仕事場で、暢気にお昼ご飯食べてるってのは、なんだかなぁ~って感じだし。
 男4人が顔つきあせて、携帯ワンセグの小さい画面で、高校野球を観戦してるってのも、違和感ありありだよね、どうみても」



それだけ言った長野は、一つ、これ見よがしに大きく息を吐き出すと、開いていたノートパソコンに視線を落とし、仕事を再開してしまった。


言われた四人はというと、黙祷とは別の意味で、もう一度頭を垂れることしばし。


次の瞬間には、のどを詰まらせながら、大急ぎで残りのご飯を各々の胃に収め、注目のカードだった試合の続きを見るのも忘れて、いそいそと携帯の画面を閉じたことは、言うまでもなかった。


長野探偵事務所の窓の外には、逝く夏の日差しが照りつけ、閉じられた画面の向こうでは、今し方、黙祷を捧げた高校球児達が、スポーツマンシップに則った戦いを、再開していた。

 

=了=

 

<あとがき? >


ギャグなんだか、マジなんだか、よくわからない作品になってしまいましたが(ヲイ)自分で言うなってつっこんどきます。

ちなみに、成瀬は神戸っ子なんで、甲子園の黙祷は、年中行事です(はい?)
 いえ、本当に、成瀬も意味があるかないかじゃなく、こういう時間を持つことが大事なんだと、思っています。
 普段考えないことを、きちんと考える時間を持つことが、今の自分にできることだと、思っていますので。

平和への祈りが、絶えることのないように。


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一日遅れの、9.11 [ぶいろく系]

今年の9.11は、一日遅れになってしまって申し訳ありません。
PASSや、フォームの対応なども、今日、完了させていただいております。
お待たせいたしまして申し訳ありませんでした。
また、新作を上げる時間もなかったので、PASS制限ページ内の下記作品を、あげさせていただきますこと、あわせてお詫び申し上げます。
下記作品は、成瀬のWEBページ本家の、立ち読み企画で公開させていただいておりますGROUND ZEROの番外編。。。といいますか、後日談になりますので、よろしければ、本編も、お読みいただければ、幸いです。
では、今年も9.11の日への鎮魂の祈りを込めて。。。 
introduction
四年もの歳月をお付き合いいただきました、GROUND ZEROの完結から、すでに数年の時がたちました。
世の中は、決して良い方へ向かっているとは言いがたい時代を、今私たちは生きているのかもしれません。

しかし、この作品を通して、私は、沢山の方の優しい心を、見せて頂きました。
そういう想いを抱いてくださる人が、この世界にひとりでも居てくださる限り、この世界は、多くの哀しみを孕みながらも、また同じくらい多くの優しさを、持ち続けていられるはずと、私は信じています。

そんな皆様への、感謝の気持ちと、今年も訪れた9・11への、切なる鎮魂も込めて。
この作品を、捧げます。
■■■■■■■■■
// それでも君は 世界を守るよ //
2001年9月11日 午前8時46分(現地時間)
に起きた、米国同時多発テロ。

 

全世界の様相が、たった一日で塗り替えられた、その日。

確かにその瞬間、世界中の多くの人々が、為すすべもなく、そこで失われていく数多の魂を前に、その命の重さを、目の当たりにしたはずだった。

したはずだったのに、その時を同じくして、この世界は、一つの魂の誕生を、軽んじた。

軽んじた結果、この世界はその魂に、自分たち人間と同じ、命が、…その心が、間違いなくそこに宿っていることを、気づけなかった。

いや、本当は、気づいていたのかもしれない。
気づいていたのに、あえて、気づかないフリをした。

そして、わからないふりをし続けたことで、この世界は、テロリストのZEROを、生んだ。


それでも、なお。
そんな愚かな人間たちにさえ差し出される、ZEROの尊い手を、拒み続け、振り払い続けて、この世界の人間は、その愚かな行為を、繰り返した。
そして、そんな愚かしい10年近くの時を費やして、ようやく。
その手を、自分から掴もうとすることに、一分も躊躇わなかった者が、現れた。

そうやって、ZEROの最期を見届けた者たちは。
自分たちが、間に合わなかったと、…きっと、あれから半年以上過ぎた今でも、…そう、思っているに違いなかった。

自分たちの選択は、決して間違いではなかったけれども。
あの時点で、自分たちにやれるべきことを、全てやったけれども。

それでも。
それでも、自分たちは遅すぎたと、その場にいた誰もが、思っているに違いなかった。

それは、僕自身が、彼と向き合っていた8年間、ずっと抱え続けた想いと、同じ種類のものだったから。
だから僕には、わかる。

彼らは決して、それが重いと呟くことは、ないけれど。

それでも、その心に、その慙愧の念が常に存在し、消えることのない罪の意識が、重石のように影を落としていることを、僕は誰よりも、知っている。

そんな僕が、彼らに、
『 そうじゃない 』
と、そう、言葉にすることは、至極簡単だったけれども。

けどそれは、言葉で伝わるものではないと、僕は感じていた。

現に僕は、それを言葉で、理解したわけでなかったから。
ZEROの、…いや、長野の求めたものは、救いなんかではなかったと。
そのことを知ったのは、誰かから与えられた言葉ではなく、この瞳に宿された光と、この手に触れられた掌から、だったのだから。

だから僕は。
いつか彼らが、自分たちは、ちゃんと間に合ったんだと。
そう、感じてくれることを、切に願う。

そのためにも、僕は、ここにいる。
ここにいて。
そして、ここで、生きていく。


彼らの守り続ける、この世界を見つめながら。
哀しくも優しい、その世界の片隅で。

長野の魂を、この瞳に抱いて。

 

+++++++++++++++++++++++++

 

「悪ぃ、待たせたか? 」

 

あのアメリカでの、9.11事件から、31回目の今日。

昨年この同じ場所で、30回目の記念式典が行われた時と同様。
アメリカ本国のみならず、駐留アメリカ兵士も多く、テロ撲滅を掲げて組織された、TMTのお膝元であるここでは、大規模な追悼の慰霊祭が、行われる。

その会場となる広場が見下ろせる、小高い丘のベンチに腰掛けて、ずいぶんと手持ちぶさたな様子で、地面から浮かせた足をぶらぶらさせていた准一の背中に、剛のぶっきらぼうな、けど、どこか優しさを含んだ声が、かけられた。

公園とは名ばかりの、人気のない、これといった遊具もなく、ただ見晴台のようになったこの場所に、たった一つだけ、ぽつんと置かれているベンチに腰を下ろして、その柵の向こうに見える、慰霊祭の会場を見るともなしにみていた准一は、その剛の声で、くるんと後ろを振り返り、そっとその頬に、小さな笑みを乗せた。

「別に、時間通りやから、…全然遅れてへんよ」

立ち上がりかけた准一を、そのまま座っていろと言わんばかりに、目深に被ったキャップ越しの、その目で制した剛の動きを正しく読みとった准一は、ベンチに腰かけたまま、肩越しに振り返ってそういった。

その准一の言葉に、剛は、自分の左手に巻かれた時計にちらっと視線を落とし、
「そっか」
とだけつぶやくと、スタスタと歩を進めて、准一の座るベンチをまたぎ越え、その隣にすとんと自らも腰を下ろした。

「僕のが、ちょっと早よ着き過ぎてん。
式典の影響で、こっち方面の電車が込むかと思って、結構余裕もってでてんけど、以外と公共の交通機関は、問題なかったみたいやわ。
逆に、検問ようさんやってる車の方が、道込んでたんと違う? 」

自分の左側に座った剛へ、自分の顔だけを向けながら、そう言った准一に、彼は深々と被っていたキャップを取って、乱れた髪を手櫛でばさばさと整えながら、答えた。

「あー、そうでもねぇけど」

人目を引く容姿をしている割に、それを全く気にとめている様子のない剛は、いかにもめんどくさそうに、適当に整えた髪から手を離すと、反対の手に持っていたキャップを、パンツの後ろのポケットに、無造作につっこんでいた。

もちろん、剛が被ってきていたのは、TMTで支給されている制帽で。
私服であれば、それなりに、今時の青年の格好をしてしかるべきな人物であるはずなのに。
そんなことは、今の彼にとって見れば、本当にどうでもいいことであるのだろうか?
なおかつ、彼が身に纏っているものも、味も素っ気もない、TMTの制服だった。

そのことが、少し残念だと、准一は思っていた。
剛が、TMTの隊員である自分を忘れる時間は、果たして、彼の中にあるのだろうか? と。

ただ、それを聞いたところで、何が変わるわけでもないことを知っていた准一は、そのことには触れず、殊更空気を軽くするべく、軽口をたたいた。

「…もしかして、私用でTMTバッジ使こて、検問すっと飛ばしてきたん? 」

いたずらっぽい目をして、剛を覗き込むようにそう言った准一に、言われた剛は、血相を変えて、答えた。

「んなこと、するわけねぇだろ? 俺をなんだと思ってんだっ! 」

剛が答えたとたん、准一は、小さくクスリと笑い声をもらした。
その声で、准一が、そんなことをするわけがないことを知っていて、わざと言ったことだと気づいた剛は、准一から、自分がからかわれたことに、ばつが悪そうに舌打ちして、そっぽを向いた。

そんな剛を横目で見ながら、もう一度だけ小さく笑った准一は、視線を前に戻して、口を開いた。

「仕事抜けさせてもて、大丈夫やった? 」

明らかに勤務中を想定させる、TMTの制服姿である剛をして、そう言った准一に、ようやく機嫌を直したらしい剛は、少しだけ顔を准一の方へ傾けて答えた。

「抜けてきたんじゃなくて、終わらせてきた」
「……まだ半日分、シフト残ってるやろ? 」
「俺以外のメンバーはな」
「……えっ? 」
「俺は、今日はもう残り時間、全部オフにしろってさ。
一応コレも、業務命令? 」

そういって苦笑いを浮かべた剛に、今ひとつついていけていない准一は、わけがわからないといった表情を浮かべて、疑問の言葉を口にした。

「どないしたん? 」
「うちのチームリーダに、3時間だけ休憩くれって頼んだら、その理由聞かれて」
「うん…」
「ここに、お前と来る約束してるっつったら、今日は不帰にしていいから、行って来いって言われた」
「……坂本さんに? 」
「ああ。
たとえ、1分間っていう短い時間であっても。
長野君の願った未来が、そこにあるはずだから、そこに立って来いって」
「…なっ? 」
「たった60秒でも、世界中から銃声のやむ、その奇跡のような瞬間を。
三人で、……見てきてくれだとさ」

淡々と語られる剛の言葉に、准一は息を呑んだ。

 

そう、昨年同様、今日この慰霊祭の会場で行われる式典は、昨年と決定的に違うところが、一点だけあった。

それは、この慰霊祭が行われる時間の、そのうちの1分間だけ、世界中から、砲弾の音が消える。

 

ジェネティックを生み出した人間の英知を、ZEROの死を目の当たりにすることによって、それは、大いなる過ちであったと認識できた人間達が、自分達に、今できるなにかを模索した結果、それは、自分達の犯しうる過ちを繰り返さないために、平和への祈りを捧げることだった。

本来ならば、誰もの心にあったはずの、平和への祈りを、不断の努力で捧げ続けねばならないことは、もしかしたら、間違っているのかもしれない。

でも、そうだとしても。
その、平和を願う人間の心を、少しでも取り戻すために。
失いかけたそれを、どうにかして取り戻そうとするために。
……たった1分間という、ごく僅かな時間であろうとも。

その時間だけは、この地球上から、決して銃声を響かせない為の運動を行ったことで、ようやく勝ち得た、奇跡と呼べる時間だった。

各国の首脳、また出来る限り賛同を得ることが可能な、紛争地域での統括者に訴えかけることによって、完全ではないかもしれないけれども、それでも、可能な限り、この1分間だけは、この地球上から、戦火を治めることを、互いに約束した。

それは、長野によって残された、この世界に生きる人々の、導き出した答えでもあった。

たとえそれが、全ての人々の答えではなかったとしても。
それでも。
自分達の、犯した過ちに酬いるために。
自分達人間が、そのための、小さな一歩を踏み出したことに、間違いはなかった。

 

「そうなんや…。
三人で見てきて、って? 」
「ああ」
「なんや、坂本さん、…らしいね」
「……そうだな」

坂本の言う三人とは。
剛と准一と、…そして、准一の中に住まう、長野のことを指しているのだろう。

彼らしい物言いに、准一は、熱くなった瞼の裏を納めるために、すうっと顔を上げて、蒼穹の空を見上げた。

この空に、銃声が響かない、奇跡のような瞬間が、今から訪れようとしている。
その時間は、たった60秒。
けれど、その瞬間こそが、きっと、長野の願った未来なのだ。

「60秒の奇跡、……か」

抜けるような蒼い空に、音もなく吸い込まれていく、自分の呟いた言葉たちを見上げながら、准一は、その奇跡の瞬間を想い、自ずと微笑んだ。

しばらく二人は、時折薄っすらと、淡雪を吐いたような柔らかな雲が、ゆらゆらと流れていく空を、黙ってみあげていた。

が、不意に、隣に座っていた剛が、すっくと立ち上がって、手元の時計で時間を確かめた瞬間、カーン、カーンと、教会の鐘の音に似た、空気を震わす澄んだ響きが、あたり一面に、響き渡った。

「始まるな」

剛が、ベンチから数歩前に進んだ、柵の前で足を止めて、眼下を見下ろしながらそう言ったので、それを聞いていた准一も、すっと音もなくベンチから腰を上げると、剛の隣に並んで、丘から見下ろせる位置にある、慰霊祭の会場を見つめた。

今から行われることが、まるで、敬虔な儀式のように。
それを知らしめるために、打ち鳴らされる鐘の音を、しっかりと心に刻み付けるようにして、息をするのも憚られるほどの、ぴんと張り詰めた空気の中に、剛と准一は立っていた。

10回だけ打ち鳴らされる、その鐘の音が止んだ瞬間から、1分間。
その60秒だけ、世界が、静寂に包まれる。

鐘の音が、止まった。

次の瞬間。
剛は、ゆっくりと瞳を閉じて、黙祷を捧げるかのように、微動だにせず、下げた両手を体の横で握り締め、その時間を、体中で受け入れた。
准一は、剛とは逆に、長野の魂を内包した瞳を、しっかりと開けたまま、瞬きをするのを忘れるほど、砲撃が止んだ世界を、じっと、見据えていた。


永遠にも似た60秒が、今、終わる。


バサバサと、無数の羽音を立てて、慰霊祭の会場から、空へ向かって舞い上がっていく、真っ白な鳩の群れに、その1分間が過ぎたことを知らされて、剛と准一は、お互いの顔を見合わせた。
この羽音とともに、この世界のどこかでは、また、砲弾から火の手が上がっているかも、しれなかった。

それでも二人は、どちらからともなく、こくんと、頷きあった。

自分達が立って居た、その60秒に、長野の願う未来があったことを、確認しあうように。
そのことを、長野も感じていてくれたはずと、互いに信じあえるように。

「この世界の、…今この瞬間の記憶が、これからも、ここで刻まれて行くんやろうね」

准一は、呟くように、そういった。

この世界の、一度としてとどまることなく、足早に過ぎ去っていく時間の中で。

どれほどの過ちが、犯されようとも。
その過去の時間があったからこそ、今のこの時間があることを、受け入れなければいけない。

あるがままに、…と。
そう願った、長野の想いを信じるのだから。

だから、この瞬間の連続が、いつかの未来になりえることを、今の自分なら、信じられる。
いや、そう信じたい。

だから准一は、そうった。

そういった准一を、ふっと見やった剛は、
「そうだな」
と、言葉すくなに、けどしっかりとした声音で、答えた。

「これから先の。
この世界の行方を決めんのは、今この瞬間に、失われた命の重さを、その心で感じている人たちなんやとしたら、この世界の抱える過ちも、痛みも、哀しみも、…全部。
いつかは、……越えられるんやろか? 」
「超えて見せるさ。
そのために、俺達は、この世界に生かされているんだから」

こともなげに言った剛は、不遜な顔で、片方の唇を持ち上げるようにして、准一を見た。

准一は、そんな剛を見て、ふっと肩の力を抜くと、
「そやね」
と、返した。

その准一の同意の言葉を聞いた剛は、自身も准一と同じように、肩でひとつ息を吐き、今の今まで気を張っていた背中を、くるりと身体を回転させてその後ろにある、腰高の柵に預けると、くいっと顎を持ち上げて、空を仰いだ。

准一は、慰霊祭の会場に、柵越しに背中を向ける剛とは逆の、前を向いたままの姿勢で、その剛の横顔を、そっと盗み見た。
まるでその表情を隠すように、目深にキャップを被って現れた剛が、意図的に、准一の左側に座り、あまり正面切って自分の方を見ようとはしなかった理由が、そこにあったから、自然と目が行ってしまうそこで、視線を止めた。

そこには。
剛の、左のこめかみから頬にかけて、まだかさぶたも出来ていないような、大きな傷があった。

それは、この慰霊祭を目前に控えた数日前、ここがテロの標的にされ、爆弾騒ぎが起きたときに、事態の収拾にあたった剛たちが、ギリギリのところで爆破は防いだものの、逃走しようとしたテロリスト達との銃撃戦で、負傷した、その傷跡だった。

剛が怪我をしたことを、あらかじめ准一は、ニュースを見て、慌てて負傷したTMT隊員に剛たちが含まれて居ないのか、こちらからその確認の連絡を入れた際、健から聞かされていたが、後になって、剛本人が大丈夫だと連絡してきた以上、それ以上口を出すことも出来ず、今にいたっていたが、実際その傷跡を目の前で見ることに、まるでそれが、自分自身の怪我のような痛みを感じて、思わず目を閉じた。

自分の力の及ばぬところで、自分の大切な誰かを、ただ失ってしまう恐怖を、まだ准一は、片時も忘れることはできないから。

そんな准一のかもし出す空気に、はっと自分の失態に気がついた剛は、自分が思わず気を抜いたばかりに、わざと見せないようにしていた方の横顔を彼に晒していることに、軽く舌打ちをして、
「悪ぃ」
と、口の中で呟くように言ってから、もう一度身体を素早く回転させて、そちら側の顔を見せないよう体の向きを変え、柵の向こうへと視線を投げた。

謝られた准一は、ふるふると首を振って、それを否定し、気づかないフリをする必要がなくなったことで、体ごと剛の方を向き、口を開いた。

「剛君は、そないな怪我しても、TMTの隊員である自分を、やめる気はあらへんのやろ? 」
「…ないな」
「だったら、僕なんかに謝る必要は、あらへんよ。
間違おてることしてるなんて、思ってへんのやから、謝る必要はないし。
そもそも、僕も剛君のしようとしてることを、否定する気は、端からあらへん」
「…岡田? 」
「確かに、そんな風に怪我したりするんは、…やっぱり、心配は心配やよ? 
やけど、それが剛君の選んだことやったら、僕にはなんも言えん」
「…………」
「ただ、…なんでなんやろ? ……とは、思うけど」

准一が、剛に視線を当てたまま、ぽつりぽつりと、その唇から零していく言葉に、じっと耳を傾けていた剛は、
「何がだ? 」
と、話の先を促すように、尋ね返した。

「剛君が、TMTに入った、…理由? 」

 

准一は、知っている。
自分の中に、揺ぎ無い何かを持っていて。
だからこそ、こちらがなにをいっても、何をしても、…絶対に揺るがない人間が、この世には存在するということを。

准一の世界の全てであった、かつての長野が、そうであったように。
きっと、坂本や剛も。
いや、恐らくは、井ノ原や、健も。
そういった、自分の中の、決して揺るがないなにかを、持っている。

だから准一は、自分には、それを覆すことも、なぜ? と尋ねることも、できないと思っていた。
その答えが、なんであろうとも、結果が変わらないのであれば、なぜ? と尋ねることは、相手の重荷になる可能性があったからだ。

結果として。
准一は、長野に、多くを尋ねることはなかった。

ただそばに居ることで、展望が開けることはないとわかっていても。
それしか出来なかった自分を、理解していて、どこかでそれを、諦めている部分があったのかもしれないと、今になって、准一は気づいた。

気づいたから、今度は、諦めることをやめて、剛と対等に向き合うことにした准一は、たとえその答えが得られなくとも、聞かずにいた事を後悔することのないように、遠慮がちながらも、その言葉を口にした。
剛がそのことを、やめることがありえないと解っていて、なぜ? と問うことは、相手を困らせることになると解っていても、あえて、尋ねようとする。

以前の准一には、なかったことだった。

言われた剛は、それがわかっていたからか、その刹那、目を見開いて、僅かな驚きを見せたが、すぐに、元の表情に戻して、剛の表情の変化に身構えてしまった准一の肩を軽く叩いてから、なんでもないことのように、口元を緩め、少しだけ言葉を選ぶためにか、眉根を寄せて、話し出した。

「俺がTMTに入ったのは、この世界を守る為だ。
……っていえたら、カッコもつくんだろうけど。
けどホントは、そんなんじゃねぇ」
「ほな、……なんで? 」
「俺は、…いや、少なくとも、誰でもが持ってるわけじゃない、そういう特殊技術を買われて、TMTにスカウトされた、井ノ原君や健と違って、自分から、それが最短距離だからって理由だけで、自衛隊の養成所経由で、TMTを目指してた俺や、元々自衛官から志願してTMT入りした坂本君は、……間違いなく、自分達が世界を守れるなんて、思っちゃいない」
「えっ? 」
「別に、はなから、守る気がないんじゃない。
そりゃ、…守れたら、どんなにいいかって、思わなくもない。
でも、そんなことは、どだい無理なんだ」
「無理って…」
「俺は、最初から、なにも持っていない。
井ノ原君のような、情報操作の技術も、健のような、爆弾処理の技術も。
ただ俺にあるのは、自分の体と、気持ち一つ、……ただ、それだけだ」
「気持ち…? 」
「ああ、俺はそれしか持っていないから。
どんなに頑張ったって、俺なんかに、この世界は守れない、救えない、……絶対に」
「…………」
「だから、最初から、自分がこの世界を守ろうなんて、俺は、考えちゃいない。
それでも、俺がTMTに入ったのは、……今のこの状況を、ほんのわずかでもいいから、…少しでもいい方向に、変えたかったからだ」
「それが、…剛君の、気持ち? 」
「そうだ」


きっぱりと、そう言い切った剛に、准一は、
「そっかぁ…」
と、独り言のように、唇を動かした。

納得したように、その言葉の欠片を落とした准一に、この話は、これでおしまいとばかりの表情で頷いた剛は、自分の内側を准一に晒したことで、もう隠すことを辞めたのか、先ほどと同じように、背中を柵にもたせ掛けて、両手を頭の上にあげると、ゆっくりと伸びをした。

この世界を、守るためではない。
今の状況を、少しでもいい方向に変えたい。
ただ、それだけの為に、自分を盾に出来る人間の気持ちを、准一は、解りたくなかった。
そして、そこまでの想いを持ちえた人間が、自分には決して、世界を守ることが出来ないと、そんな風に考えていることが、…とても、哀しかった。

この世界が、そうやって、誰かの必死な想いで、破滅への途を辿らずにすんでいることを、…そのことを知っている人間は、一体どれほどいるというのであろう。
守られた人間に、感謝しろとはいわない。
けれど、自分が誰かに、守られていることを、忘れてはいけないと思う。

だから准一は、剛の言葉を、理解したわけでも、納得したわけでもなかった。
ただ、ああ、そうなのか…、とだけ、思っていた。
そう思ったから、相槌をうっただけだった。

それが剛の選んだ途なのは、わかっている。
けれど准一の心は、わかるけど、わかりたくはなかった。

准一は、自分の目の奥が、つきんと痛むのを、感じた。

けれど、剛はそのことに気づかず、後ろの柵に背中を預けたまま、慰霊祭の会場から、あの9.11によって、犠牲となった人たちの名前が、順に読み上げられていく、音色のような命の名前の羅列に、そっと耳を傾けて、目を閉じていた。

 

「超えたくねぇなぁ」

不意に落とされた剛の声に、准一は俯けていた顔を上げて、彼を見た。

「……なにを? 」

小首をかしげるように、准一は目を閉じたままの剛の横顔に尋ねた。
剛は、思わず口に出してしまった自分の言葉に、一旦口を噤んだが、今更黙ったところで、話を逸らすことは無理だと判断したのか、きゅっと自分の下唇を噛んでから、そこに言葉をのせた。

「ん? ああ、…失われた、命の数」
「…え? 」

ふっと目線をあげた剛は、自分を見つめる准一に気づき、怪訝な顔をする彼を、とりなすようにその頬を少しだけ緩めて、端的に答えた。

「あそこで、…あの9.11のツインタワーで失われた、2749の命を、超えたくねぇなって思っただけ」
「超えるって…? 」
「俺が、救えなかった、命の数」
「救えなかったって、…どういうことなん? 」
「だから、…俺が、TMT隊員として関わった事件で、守りきれなかった、命の数だよ」
「…それって……」

殊更、つらつらと言葉を並べる剛と対照的に、ほんの少し、震えを含んだ声で問い返した准一に、微苦笑を浮かべた剛は、あっさりと、答えを返した。

「416」
「………」
「8年で416人。
それが、多いのか少ないのか、…そんなこと、誰とも比べたことなんかないから、全然わかんねぇし、自分がTMT隊員として、あと何年やれんのかも、ホントのとこ全然わかんねぇけど。
けど、俺がTMT隊員としての役目をまっとうするまで、せめて。
せめて、…あの9.11のツインタワーで失った被害者の数だけは、超えたくねぇなって、…思ったんだ」

柵に身体を預けたまま、少し先の何もない虚空を睨むようにして、それを言った剛に、准一は眉間に皺を寄せて、口をぎこちなく動かした。

「ずっと、数え、…てるん? 」
「自分が守れずに死なせた相手のことを、守れなかった俺が、忘れるわけに、いかねぇだろ? 」

さも当然と答える剛に、准一はふと思い当たった自分の考えを、当たって欲しくはないと思いながらも、外れていないだろうなという落胆と困惑の気持ちを込めて、口にした。

「もしかして、…その事件のあった日とか、その全員の名前、…とかも? 」
「覚えてる。
……ついでにいうと、自分が撃った相手のことも、覚えてる」
「なんで? …って、聞いてもええ? 」

剛はすでに覚悟をきめたのか、自分の心うちを今更隠し立てする気はないらしく、あっさりとした表情を准一にみせて、了承の意を表すために、こくんと頷いた。

「それを忘れたら、俺は、人でなくなる。
自分が傷つけた命や、失わせた命の重さを忘れたら、…きっと俺は、人間じゃなくなる」

言われた准一は、それを否定するように、かぶりを振った。

確かに、剛のいうことには、一理ある。
自分が人である以上、自分と同じ人の命の重さを、決して忘れてはいけない。

けれど人の命は、存外軽いことも、准一は知っている。
そして、その人の命を軽く見る、…そんな人でなしが、世の中に五万といることも、知っている。
ならば、そんな世界で、その重さを背負い続けることは、不可能に、近い。
特に、剛のいる場所では。

そう思ったから、准一は、言い募った。

「けど、それって、相手が撃ってきたから、仕方なしの不可抗力やったり、現場に駆けつけたときには、もうどうしようもない状況になってる現場とかで、消されていった命の数とかも、入ってんねやろ? 」
「どんな状況だろうと、自分が引き金を引いたら、それは全部自分の責任だし、TMT隊員である以上、自分が担当した事件の要救助者の救助に間に合わなきゃ、俺が見殺しにしたも同然だ」
「じゃあ、逆に守った命は? 」
「数えても、意味ねぇだろ? 」
「なんでなん? 」
「テロの現場に遭遇する人間は、本来は死ぬはずじゃなかった人間だ。
最初から死ぬはずじゃなかった人間の命が助かるのは、当たり前のことだ。
それをイチイチ数えて、守った命と守れなかった命を天秤にかけたって、なんの意味もねぇ。
守った命は、テロさえなきゃ、もとからちゃんとあった命で、守れなかった命こそが、俺が失わせた命なんだからな」
「…そんなん、重過ぎるやろ? 」

言った准一の方が、泣き出しそうな顔をしているのに、当事者であるはずの剛は、唇を軽く持ち上げて、気丈にも、笑って見せた。

「どんなに重くても、それ全部、引きずって生きてく覚悟がなきゃ、こんなもん持つ資格ねぇよ」

剛は、胸元に収められているであろう、自分の愛銃をぽんぽんと、ジャケットの上から叩いてみせた。

准一は、長野が自分の魂を削って、この世界を守る姿を、ずっとそばで見てきた。
その結果、彼がこの世界を静かに去っていったことも。
そして剛もまた、同じように、生きようとしている。

失った命の重さを、片時も忘れることなく。
その命と、きっと、いつだって剛は、真正面から向き合っている。


それは、おそらく、准一が口出しするようなたぐいの話ではないことは、わかっていた。

けれども。
そうだとしても、いつ、いかなるときも、剛は、自分がTMT隊員であろうとするために、こういうことを、一体いくつ抱えているのだろう? 
と、准一は、感じた。


「この世界を、…その全てを守ることなんて、絶対に無理なんだ。
消失の再生は、誰にもできない」

笑顔を消した剛は、真剣な声で、そう言った。

「守ったモノがあったとしても、守れなかったモノもまた、数え切れないくらいある。
人も、街も、花も。
一瞬でなぎ倒されて、消滅する瞬間を、俺は知っている。
それを、止めることもできずに、ただ、そこで眺めているだけしか、できなかったことも」

そこまで言った剛は、自分達がいる小高い丘の上から見下ろせる街並みに視線をやってから、どこか遠くに思いを馳せるような瞳をして、唇を噛んだ。

その横顔をじっと見ていた准一は、ゆっくりと瞳を閉じ、瞼の裏に浮かんだ想いを、剛に届ける言葉とするため、溜めていた息をひとつ、吐き出した。

「守った世界は、ちゃんとあるよ」
「え? 」
「剛君が怪我したそれ」

そういって、准一は剛の顔の傷を指差した。

「その時、ここが守られたから、この花もこの街も、まだここに、ちゃんとあるやん」

剛の顔から指先を離した准一は、自分達の立つそこへすとんとしゃがみこんで、柵の向こう側の、この街を見下ろす、…その丘の斜面に咲く小さな白い花たちを、指差した。

准一の示す先をみやった剛は、それでも僅かに表情を歪めて、
「けどな…」
と、口を開こうとした。

がしかし、それより先に、ぱっと立ち上がった准一の指先が、その唇を塞ぐように、すっと一本そこに立てられ、剛は言葉を飲み込まざる得なかった。

「けど、テロがなかったら、それは当たり前のことやったっていいたいん? 」

准一が確認するようにそう言うと、准一の人差し指で、言葉を止められている剛は、頷くだけで返事を返した。
准一は、とたん、苦笑いを浮かべた。

「ほんなら、せめて、失った命の416と同じ重さで、守った命の数も覚えといて」
「守った命? 」
「1人」
「…は? 」
「守った命は、ひとつ、ちゃんと、…ここに、あるんやで」

剛の口の前で立てられていた指を、そのまますっと下に降ろして、准一はそれを彼の胸の前でとんとあてると、そのまま自分の心臓の上に、それを戻した。

准一の指先で、指し示された、彼の鼓動を刻む心臓の上。
剛の視線は、そこで、縫いとめられた。

「剛君が守った、命の数。
僕の命、…ひとつ分や」
「お前、なにいっ」
「テロに巻き込まれた人らを、剛君が身を挺して、なんぼ救っても、…それは、死ぬ気のなかった人らやねんから、自分が守ったんとちゃうっていいたいんやろ? 
僕はそうは思わへんけど、剛君がそう思うんやったら、それでもええ。
でもな、僕はあの時、間違いなく、死ぬつもりやった。
明確な意思を持って、死を選んだ」
「…岡田……」
「でも僕は、まだ生きてる。
やから、僕の命を救ったんは、守ったんは、間違いなく、…剛君や。
それを、忘れんといて」

自分の胸元を指していた手を、すっと降ろして、准一は、微笑った。

「確かに、全部を守ることなんて、無理やと僕も思う。
人間は、自分の手の届く範囲のものしか、守られへん。
そして、失ったものは、二度と同じ形には戻らへん。
やから、今読み上げられている2749の命も、剛君が抱えてる416の命も、どれだけ安らかにと祈ってみても、時とともにその全てが浄化されるなんて、僕は思われへん」
「そうだな」
「せやから、世界を守るなんて、そない簡単なことやない。
でも、それでも。
僕は、ここに生きている。
生きて、明日の世界を見たいと思ってる」
「……明日の世界を? 」
「うん。
死のうと決めてたはずの僕は、まだ、生きてるよ。
失われたものの数に比べたら、たった一つの命かもしれへん。
けど、そのひとつの命が、長野君の瞳を抱いて、この世界の明日を、見たいと思ってる」
「…………」
「1日先を思い、願う、…その幸せを、剛君が、僕にくれた」

時より風の向き加減か、大きくなったり、小さくなったりしながら、途絶えることなく読み上げられる、ツインタワーで失われた人たちの名が、とつとつと流れて、その丘の斜面に吸い込まれていっていた。

それを耳にしながら剛は、准一の唇からこぼれだす言葉の一つ一つを、まるで生まれて初めて聞いた言葉のような表情で、見ていた。

長野と出逢ってから、別れるまでの時間すべてで。
准一が望んでいたのは、終わりの日が来る明日だった。
だから、希望と絶望の折重なったこの世界の、その1日先に思いを馳せる日が来るとは、准一自身、思いもしないことだった。

「ほんまいうたら、どれほどの想いや願いをついやしても、無理矢理奪われていく命を、それを食い止めることは、人間には、でけへんのかもしれん」

現に、ジェネティックの存在を知った今ですら、世界は劇的な変化を遂げることはなかった。
その事実に、衝撃は走った。
けれども、多くの人間にとって、それは、対岸の火事でしかなかった。
そうやって世界は、今日も多くの、人の血や涙を、流させている。

でも。
そうだとしても。

「けど、剛君は、この世界を信じてるし、剛君に守られた僕は、この世界を信じたいと想てる」

そこまでいった准一は、一歩前に足を踏み出し、剛と向かい合うと、そっとその手をとった。

「僕の命を守ったこの手は、優しかった。
でも、この手が守ろうとする世界は、哀しい。
それが、この世界の現実や。
……それでも」

剛は握られたままの己の手を見つめてから、准一の目を、真正面から見つめた。
その向こうに、もうひとつの、魂が息づいている。
それが、見えるようだった。

剛は、息を潜めて、准一の言葉の先を待った。
今はただ、彼の言葉に、そっと耳を傾けていたかった。

「それでも、剛君は、世界を守るよ」

准一の言葉は、剛の涙腺を刺激するのに、十分な力を持っていた。
鼻の奥が、つんと痛むのを感じ、剛は慌てて顔を空に向けた。
けど、その真っ青な空を見上げた目は、哀しみの色を含むことはなく、すうっと細められた。

剛は自分が、TMT隊員としてやってきた時間で、なにも守れなかったとは、思っていない。
けれども、自分が守れたものなんて、失ったものの多さに比べれば、取るに足らない数だと、剛は思ってきた。
でもそれが、准一の言葉で、真っ向から否定されたのだ。
否定されたことを嬉しいと感じるなんて、本当は、おかしいのかもしれない。

けど、准一の言葉は、剛が自分でわざと閉じていた部分に、沁みて来るようだった。

剛は、自分がしようとしていることに、ただの一度も、見返りを求めたことはない。
けど、自分がしていることが、絶対に正しいと言い切れる自信は、ない。
所詮自分がしてることは、人殺しと、かわりがない。
ならば、本当は、もっと違う方法が、あるのかも知れないから。

その狭間で、揺れ動く想いが、自分の中になかったといえば、それは嘘になる。
だから、自分の想いを、命を、…他の人間の想いや命より、軽く見た瞬間が、絶対にあった。

それでも、守った命がここにあると、その手をつながれ、その命の重さをそこにのせて見せられると、それを離してはいけないと、心の奥底から、否が応もなく感じた。

その想いが、もしかすると、今度は自分を、守るのかもしれないと、…剛は思った。

自分が世界を守れるなんて思ってはいない。
けど、自分が守ったんだと言ってくれる准一が、そうだといってくれるのなら、それもいいと剛は思った。

剛は、この先、未来永劫、自分が何をしても、失った命の数が戻ることはないと、わかっている。
たとえ、この世の誰もが、剛の失わせた命のことを忘れたとしても、自分だけは、絶対に忘れない。
忘れてはいけないし、忘れるつもりもない。

けども、守った命も、一つある。
たったひとつ。
けど、その一つが、失った命と同じ重さと、尊さを持つのなら、自分は、世界を守れているのかもしれないと、そんな、夢のような、優しさに、時に甘えることが、できるのかもしれない。

そんな風に想える自分を、剛は、幸せなんだと感じた。

明日になればまた、自分は、この手に人を傷つける道具を持ち、その重さを背負い、死と隣り合わせの現場に、立っているのだろう。

それでも自分は、幸せなんだと、…無性にそう思えて、仕方がなかった。

剛は、准一に繋がれた自分の手はそのままに、背をむけたそこにある鉄柵に、腰をもたせかけて、のけぞるように身体を傾けると、顔ごと、空を見上げたまま、彼に言葉を返した。

「もしも。
もしもこの空が、ニセモノだったとしても」
「…ん? 」
「今、俺の見ているこの空が、実はニセモノで。
俺が、今の今まで、空だと思って見ていたものが、本当は、ツクリモノの、…プラネタリウムの空を、誰かに見せられていただけだったとしても。
だとしても俺は、今、自分の目に映るこの空を、本物の空だと信じる。
この空が、ずっと、こんな風に、蒼く輝き続けることを、願う」
「…………」
「岡田、お前がその空の下に、立っている限り。
その世界を、……守りたい」
「…剛君……」

准一が、言葉を伝え終えた剛を、じっと見つめる瞳の奥には、今、ここにはいない、…けれど、その託された心を抱いた准一がここに生きているかぎり、そのことを悔やんではいないであろう、もうひとつの魂が、静かに、けれど確実に、そこに宿されている。

その命が、今ここにあるために、間に合わなかったのは、自分。
けど、その魂が、まだここに残されているということは、自分が、何もかもに、間に合わなかったわけではないと、……そう、語りかけられている気がして、剛は、その澄んだ准一の瞳と、そこに映る全てを、受け入れることにした。

再び見上げた空が、揺れていた。
いや、空が揺れているわけではなく、それを見つめる自分の瞳が、涙に濡れて、空が揺れて見えていたのだ。

薄い、水の膜が張られた向こうに、果てしなく広がる空が映し出す、この美しくも、残酷な世界。

けれども、見つめた世界全てが、切ないまでに、いとおしく思えた。


剛は、目元にこぼれかけた雫を、あいている方の手で、ぐいっと拭い去り、仰ぎ見ていた顔を下げて、准一と向かい合った。


そして、大きくひとつ息を吸い、握られた手をぎゅっと握り返して、その言葉を言った。

「ありがとな」

なにに、”ありがとう”なのか。
誰に、”ありがとう”なのか。

それを明確に説明することは、今の剛には難しかったが、ただ、その言葉しか、今の自分には、語ることが出来なかった。
けれど、それはきっと、まっすぐに、准一の心に届いたに違いなかった。

なぜなら、言われた准一は、その目に浮かべた涙を零さぬように、瞬きひとつせず、ただ、そっと微笑んでから、頷き返したのだから。

 


この世界が、ただ、ありのままの姿で、そこにあることを、願う。

そんな、誰よりも大きな願いを、誰よりも密やかな想いで、その心に強く刻んだ二人は、どちらからともなく、自分達を見下ろす蒼い空に、視線を投げた。

あの空へ、還っていった彼の声が、そこに、聞こえた気がした。

 


『 それでも君は、世界を守るよ 』





その掌ひとつでは、掬い切れない命が、はらはらとこぼれ落ち続ける、この哀しい世界を。
それでも、それを、守ろうとする人間がいる限り。

この世界は、優しい輝きに、満ちている。


 








+++++++++++++++++++++++


本編で長野くんが、そらで読み上げた、小学生の坂本君が書いた卒業文集。

『 憎むな、殺すな、欺くな。
神様じゃない限り、そんなこと、人間に言っても無理だってわかってる。
だから、みんなじゃなくていい。
ひとりでいい。
たったひとりでいいから、自分の隣にいる人を。
自分の一番近くに居る、たった一人のその人の手を。
人を傷つける道具ではなく、その人の手を握って欲しい。
その手に、誰かを傷つける道具を持つのではなく。
その手を、あなたの隣に居る、ただ一人の人の。
その、誰かの手を握るために、使ってほしい。
この地球上にいる誰もが、誰かの手をつなぐために、その手を使ってくれたなら。
そうすることが出来れば、きっと世界は、……変わるから 』

この切なる願いを、体現している二人を、私は、書きたかったのかもしれません。
劇的な変化はなくても、守れるものがたった一つの命だったとしても。
それでも、この世界を守ろうとする人間がいる限り、この世界はそこにあって、私たち自身の手に委ねられているんだなって思います。
恐らくここで書いたことが、私自身の願いでもあるのかもしれません。
つながれたその手を、離さぬように。
ただ一人の相手でも。
あなたの隣に居る人を。

そう私は、希求します。

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終戦の日。/天使たちの探偵~SideStory [ぶいろく系]

終戦の日から、今年は10日ほど遅れてしまいました。。。
申し訳ございません。 

毎年、この時期にはこの小説をここで掲載させていただいておりますが、成瀬は、戦争を知らない子供です。

しかし、成瀬父は、終戦の年に生まれた子供です。
っていうか、終戦の日から数えて、10日も経たずに生まれた子です。

だから、父の話すギブミーチョコレートは、まぢで、西宮浜のとこに駐留していた米兵さんとの間で交わされたギブミーチョコレートで。
六甲付近の山幹が、あんなに広い道路なのは、実際あそこを滑走路代わりにして、米機が降りてきたこともあるからだったりと。
今では、嘘のような、本当の話を、折に触れ父が語ってくれたことが、今日という日には思い出されます。

といっても、実際父は戦争経験者ではなく、その子供である私も、もっと戦争は遠いものでしかないのかもしれません。 

ただ。

戦争を知らない人間に、本当の意味で戦争を知ることは出来ないと思いますが、知ろうとする努力が、同じ過ちを繰り返さないため、この国に生まれた人間としての、唯一の償いと考えるので、成瀬は毎年この時期だけでも、きちんと、このことと向き合う時間を作ろうと思っております。

っていうか、子供のときから、そうだったので、この時期必ずテレビとかで流れてるあれも、あながち無駄ではないと思うのです。
今年は、小栗くんや向井くん目当てぢゃん?って突っ込まれそうですが、帰国(正しい漢字がだせずにすみません)を拝見しました。
あれだって、もちろんイケメン俳優鑑賞目当てだったとしても、絶対に、無駄ではないと思うのです。

忘れないこと、考えること。
そして、今、自分の考えを、自分の気持ちで、選択することの出来る立場の自分たちが、いかに幸せなことなのかを胸に、二度と戦争という名の悲劇が繰り返されないことを、切に祈ります。

再々録なんで、新作でなくて、大変恐縮ですが。。。
そして、初見の皆様へは、このブログの本家「出せない手紙」サイト内掲載の小説「天使たちの探偵」シリーズから、そのままの設定で書いておりますので、どこぞの方々と、同じような名前の人が出ていても、それはあくまで、フィクションでございます(待てコラ(苦笑))

ちなみに、軍用施設になりかわっていた甲子園のグラウンドには、当時、もう二度と、そこで野球なんかできるわけないだろうと思えるほどの焼夷弾が、突き刺さっていたそうですが、今そこで、今年も変わらず夏の甲子園が行われていた奇跡に、感謝です。
そして、あの大きな甲子園が、シェルターのように、人々の命を爆雷から守ったこともまた、この地に住む人間が知っておかなければならない事実だと、思っております。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここから下。

「天使たちの探偵」~SIDE STORY~

= 逝く夏 =

「なんだかなぁ~」

 

液晶画面の向こうで、試合を止めた審判の動きに促されるように、カメラは引きのポジションをとり、にわかに試合が止められた理由が映し出された、球場奥の電光掲示板をすっと撮してから、得点ボードの上部に設置されたアナログ時計で、カメラは止まった。
時計の針が指す時刻は、ちょうど、正午少し前だった。

 

いや、あんたのその台詞の方が、”なんだかなぁ~”って言いたいくらい、聞かされた方の気が滅入りそうな、力の抜けた言葉を発した坂本に、自分の机でノートパソコンを広げていた長野が、上目使いに彼に向かって非難がましい目を向けたのだが。
いかんせん、普段より人様からのどんな視線であろうとも、それをもろともしない人物である坂本は、両膝に肘をついて顎を支えながら、ため息を一つついた。

ただし、誰がどう見ても。
大きなため息をつきたいのはこの場合、明らかに、長野の方である。

そもそも、長野探偵事務所の室内に設置された、来客用のソファセットであることを正しく理解しているのか、いないのか。
まかり間違っても、探偵を依頼するつもりのない人間4人が、そこに腰を下ろして、あまつさえ、雁首そろえてテレビの画面を眺めている光景に、怒る以前に、半ばあきれるのを通り越して、あきらめの境地で、そんな彼らを黙って見ていた長野だったが。
さすがに、人の仕事のじゃまをせず、静かにテレビを見ている分には、まだ許しもするが、そんな、気の抜けた台詞を聞かされ、ついでに、ため息までも落とされたのでは、たまったもんじゃない。

大体、暇を持て余している、夏休み中の学生二人、・・・である、准一と健だけならいざ知らず。
人の仕事中に、その仕事場である探偵事務所に、用もないどころか、自分たちだって、仕事中であるはずの人間二人、・・・である、坂本と井ノ原までもが集まってきて、しかも、仕事をしている人間が目の前にいることを知っていて、なおかつ、夏の全国高校野球大会を、テレビ鑑賞しているのは、それはいかに? と、聞きたくなる所行である。

いや、ただ単に、夏期休暇で暇な学生二人は、長野の事務所の雑用アルバイト(といっても、無給でいいそうだが)にやってきて、仕事中であるはずの二人は、昼休みのコンビニ弁当を、暑くて狭い車内で掻き込むのがイヤだったからという理由だけで、長野の事務所を食堂代わりに使っているのである。
で、そのついでに、仕事中の長野そっちのけで、4人で昼ご飯のコンビニ弁当をつつきながら、野球観戦まで始めてしまっただけのことなのではあるが。
普通は、しないだろう?
という突っ込みは、誰一人として、入れなかったようで、現在に至っている。

テレビの画面には、ちょうど高校球児達が、その動きを止め、スタンドを埋め尽くす両校の応援団も、手にした楽器類を椅子に置き、立ち上がろうとしているシーンが映し出されていた。

坂本の”なんだかなぁ~”は、その動きに対しての、感想だったらしい。

「やっぱり? 僕もさぁ、高校野球好きだから、毎年見てるけど、なんか違和感ありありなんだよね~、これって」

暑いときは食欲がわかないらしい健は、坂本の向えのソファーに腰を下ろし、比較的するっと入るとのたまった冷やし中華の、水色のプラスチック容器を片手に、箸で錦糸卵を捕まえながら、彼の意見に賛同するように、そういった。
が、それとは対照的に、准一は、画面の向こうの人たちと同じように、手にした箸を弁当の縁にきちんと置いてから、試合中だった選手や甲子園球場に集まる人々が今からやろうとしていることに倣おうとするつもりだったらしく、坂本と健の意見に、驚いたように、目を丸くして顔を上げた。
しかし、それに気づかず画面の向こうに目をやったままの二人に苦笑した井ノ原は、そんな准一に助け船を出すように、口を開いた。

「まあねぇ、毎年どんな試合状況だろうが、8月15日だけは、正午になったら突然コレ、っていうのも、どうなんだろう? って気は、しないでもないけど。
けど、こうでもしないと、最近は、今日が何の日か、忘れてる人多いしね。
ホントは、忘れちゃいけないことなんだから、いいんじゃないの?
多少、違和感ありありでも」

そんな井ノ原の意見に、「そうかぁ~? 」とでもいいたそうな坂本と、実際、
「でもさ、コレやってる人みんなが、ホントに心から気持ちを込めてやってるとは、僕は到底思えないけどねぇ~」
なんて、辛辣な意見を口にした健を見て、准一は、口を開いた。

「終戦の日に、黙祷を捧げることが、そないに違和感感じることなんか? 」

毎年、夏の全国高校野球大会が行われる甲子園では、終戦の8月15日の正午に、必ず試合を中断し、全員起立して、半旗の掲げられたスタンドを見つめながら、試合開始とは違った意味合いのサイレンとともに、誰もが黙祷を捧げる。
65年前に、その命を、戦争という悲劇で失った人々の魂が、僅かであろうとも、どうか安らかであれと、その思いを胸に、一分間の黙祷を、捧げる。

それは、生中継される高校野球の不文律でも、あった。

ソファーセットのテーブルの上に、コトンと手にした弁当箱を置いてから、うつむき加減で、准一は、言葉を続けた。

「僕かて、終戦の日の正午に、甲子園で黙祷を捧げることが、戦争で亡くなった人みんなの救いになるなんて思わへんし、その黙祷を捧げる人みんなが、その意味を全部理解しとうなんて、思てへんよ。
けど、意味があるとかないとか、そういう以前に、なにかやれることをやろうとする気持ちが、一番大事なんやと思う。
その球場に集まる人間全部やなくても、そのテレビを見てる人間全部やなくても、その中の何人かでも、ほんまに心からの黙祷を捧げてる人間はいてるはずやねんから、それを否定するんは、間違うてると、・・・僕は思う」

常は、さほど饒舌ではない准一の、静かな声で紡がれる、至極真っ当な意見を前に、それを聞かされた3人は、瞬時に押し黙った。
とたん、微妙な空気が流れる。

「あ、や、・・・別に否定してるってわけじゃねぇけど、・・・な」
「そうそう。いや、なんか、さっきまでふつーに試合してたのに、暗黙の了解みたいに、突然当たり前のように始まるからさ、ちょっと異様だなぁ~っていうか、そんな気がしただけで。
それが悪いっていってるわけじゃないし」
「そうだよ、岡田。
コレって、なんか恒例行事みたいになっちゃってるから、ちょっと違和感感じるけど、・・・だからって、とりあえずやっておけばいいみたいに、ないがしろにされてるわけでもないからさ、ね」

その場を取り繕うように、矢継ぎ早なフォローを必死になって入れる3人に、言った准一の方が、あわてて顔の前で、両手を振った。

「や、あの、・・・僕も、なんかきつい言い方して、ごめんなさい。
そんなつもりあれへんかってんけど、多分僕は、大阪にいてたから、毎年夏は、コレが当たり前やって、・・・当たり前や思ててんけど、けど、なんかそれ否定された気がして、つい、あんな言い方してしもて。
ホンマ、ごめんなさい」

そんな、座っていたソファーから、腰を浮かさんばかりの准一の勢いに、謝られた3人も、のんびり座っていることができず、いやいや、俺達の方こそ。
いや、そんなそんな。
と、どこまで、お互い腰が低いねんってつっこみたくなるくらいの4人の謝罪合戦は、見ていて一層、・・・・・・奇妙だった。

「もう、それくらいにしたら? 」

ソファから一人離れた椅子に腰を下ろしていた長野の声に、全員が、そちらを向いた。

「3人が言いたいことは、わかるよ。
形だけの黙祷なんて、ない方がマシって言いたいんでしょ?
テレビの中継が入ってるだけに、余計パフォーマンスっぽく感じるのも、致し方ないことだと思うし。
実際球場で、黙祷の間も、携帯片手にメール打ってる子だっていたし。
でも、そうじゃない人間の方が多いんだから、そんな穿った見方をしなくても、いいんじゃないかな?
それって、真摯に、それと向き合ってる人たちに対して、すごく失礼だよ」

長野の簡潔な言葉に、3人はぎこちなくうなずくしかなかった。
それを見てから、長野は准一に視線を向けた。

「准一の言いたいことも、わかるよ。
っていうか、そういってくれる人間が一人でもいる限り、この瞬間が無駄じゃないって俺も思うし、・・・できれば、一人でも多くの人間が、そう思っていて欲しいって、心底思う。
ただ、祈りを捧げる行為は、誰かに強制されてやるもんじゃないし、まして、必ず、この日のこの時間にしなければいけない、ってものでもない。
だから、その行為の是否を問うのは、違うんじゃないかな?
黙祷を捧げたいと思う人は、そうすればいいし、そうじゃない人は、しなければいいだけのことでしょ?
人に押しつけたり、押しつけられたりしてやることじゃないよ。
・・・亡くなった人を思いやれる気持ちを持った人間が、生きてる人間を思いやれないなんてことは、ないはずだからね」

小首を傾げるようにして言った長野の顔をじっと見ていた准一は、もう一度だけ、「ごめんなさい」と、謝罪の言葉を口にした。
言われた長野は、首を左右に振って、「俺に謝る必要はないよ」とだけ、答えた。

そして、座っていた椅子から立ち上がると、ふわっと笑って、4人に言った。

「今のは、お互いの言葉に、ちょっと配慮が足りなかっただけ。
どっちも正しかったけど、どっちも少しだけ、間違ってた。
その結果として、どっちもが傷ついた。
・・・戦争も、そうなのかもね。
ただ、今みたいに、すぐにそれに気づけたら、あんなに多くの犠牲を出さずにすんだんだろうけど。
それがとても、残念だね」

どちらも正しくて、どちらも少しだけ間違えただけでも、結局はどちらもが傷つく。
たしかに、戦争というモノも、その延長線上にあったのかもしれない。

誰もが、負けるとわかっていて、戦争を始めたわけではない。
自国を焼き尽くすために、多くの人間の命を失わせるために、戦争をしようとしたわけではない。
ただ、強くなりたい。
列国に脅かされない、そんな強い国になりたい。
そう思ったことが、それほど罪なことだったのか?
と、問われれば、そのすべてを否定することは、難しいことなのかもしれない。

それでも、失われたものは、大きすぎたけれども。

椅子からたった長野は、ゆっくりと歩を進めて、自分の事務机の前に回ってきた。
そして、ソファーセットでテレビを取り囲むように座っていた4人を見回してから、すっと右手の人差し指で画面を指していった。

「ほら、はじまるよ。
やる、やらないは、自分で決めれば、いいけどね」

その声に、ぐるんと顔の向きを変えて、長野が指さしたテレビの画面を見つめると、ちょうど12時を指した時計が映し出され、次の瞬間、「ウゥーン」というサイレンが、この一時だけ、音のやんだ甲子園球場に、こだました。

一分間の黙祷。

そこにどんな意味があるのか。
意味なんて、ないのかもしれない。
けど、意味はあると、信じていたい。

そう思う人間が、今、心からの黙祷を捧げる。
失われた命の平穏と、これから先の平和を祈る。

目配せ一つなかったのに。
それでも、まるで図ったかのように、怖いくらい同じタイミングで、音もなくソファから立ち上がった4人の姿に、ふっと表情をゆるめた長野は、ゆっくりとその瞳を閉じて、黙祷を捧げた。
そして、立ち上がった4人も、それぞれの思いを胸に、同じように、目を閉じて、頭を垂れた。

 

そこだけ、時間が切り取られたような静寂が、一瞬にして戻ったことを伝える、テレビからの音声に、その場で黙祷を捧げていた5人が、目を開いて顔を上げた。

お互いに顔を見合わせた4人は、誰からともなく、照れたように笑いあって、ソファに座り直し、中断されていた昼食に戻ろうとした。

が、同じように座っていた椅子に戻りかけた長野だけが、肩越しに4人を振り返り、言った。

「でも、ま、俺も、なんだかなぁ~って感じだし、違和感ありありって感じが、ものすごいするんだけどね」 

その長野の言葉に、4人の「えっ? 」って、驚愕の声が、重なった。

だってそれは、先ほど長野が語ったことをすべて、根底から覆す言葉に、他ならなかったから。
だから、誰もが、驚きのあまり、再び手にした箸を、取り落としそうになったのである。

けれども、そんな4人の様子に目もくれない長野は、すとんと自分の椅子に座り直すと、呆れたように4人を眺めていった。

「だって、人の仕事中に、人の仕事場で、暢気にお昼ご飯食べてるってのは、なんだかなぁ~って感じだし。
男4人が顔つきあせて、携帯ワンセグの小さい画面で、高校野球を観戦してるってのも、違和感ありありだよね、どうみても」

それだけ言った長野は、一つ、これ見よがしに大きく息を吐き出すと、開いていたノートパソコンに視線を落とし、仕事を再開してしまった。

言われた四人はというと、黙祷とは別の意味で、もう一度頭を垂れることしばし。

次の瞬間には、のどを詰まらせながら、大急ぎで残りのご飯を各々の胃に収め、注目のカードだった試合の続きを見るのも忘れて、いそいそと携帯の画面を閉じたことは、言うまでもなかった。

長野探偵事務所の窓の外には、逝く夏の日差しが照りつけ、閉じられた画面の向こうでは、今し方、黙祷を捧げた高校球児達が、スポーツマンシップに則った戦いを、再開していた。

 

=了=

 

<あとがき? >

ギャグなんだか、マジなんだか、よくわからない作品になってしまいましたが(ヲイ)自分で言うなってつっこんどきます。
ちなみに、成瀬は神戸っ子なんで、甲子園の黙祷は、年中行事です(はい?)

いえ、本当に、成瀬も意味があるかないかじゃなく、こういう時間を持つことが大事なんだと、思っています。
普段考えないことを、きちんと考える時間を持つことが、今の自分にできることだと、思っていますので。

平和への祈りが、絶えることのないように。


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光陰矢の如し [ぶいろく系]

っつか、矢が音速を超えて飛んでいる気がする今日この頃。

ホントに、気がついたら8月ももうすぐ終わろうとしてるのに、この夏には、高校時代の友人は、電撃結婚するし、大学時代の友人は、少子化の波なんてなんのそので、第二子出産ラッシュだし、9月になったら、とある理由で九州の実家に帰らなくてはいけなくなった職場の子&契約切れでオサラバしていただく職場の子(←この件だけは、申し訳ないけど、正直私はほっとしている。。。ごめん、成瀬は仕事ができるこの方が好きだ(正直すぎ))

そんなこんなが起こってる間にも、成瀬はひたすら仕事をしていた気がする。

いや、若干嘘はいってるけど、うん、夏休みはしっかりとって、旅行行って羽伸ばしたけどね(待てコラ)

でも、マヂで成瀬は最近仕事をしすぎだと思います。
根本的に、ものすごくめんどくさがりで、ぐうたらな私には、多分世間様でいうところの、そこそこ頑張ってるOL程度の働きしかしてないと思うのですが、当社比でいうと、ものすごい働いてる気がする。
こんなに働いて、私はどこへ行こうとしているんだろう?
と、お一人様手帳を書店で買いながら、まあ、なるようになるとか思ってるお気楽な人間ですが。

あ、ちなみに、最近気になってるのは確定拠出年金です。
鬼のようにとられる所得税と、住民税の節税のために、コレが最後の手段かと、勉強中。
ただし、元来びびりな性格が災いして、ハイリスクハイリターン商品は選べないので、多分ミドルリスクミドルリターンを選ぶと思われ。

その前に、姉に、私って60から年金もらえるくらいまで生きてるかな?
って聞いたら、っつか、あんたは具合が悪いといいながら、80まで細く長く生きるタイプだよ。。。
と、褒められてるのか、けなされてるのかわからない判断をされました。
この判断や、いかに。

まあ、それは置いといて。

おかげさまで、実生活でも、大概不義理な人間でぶっちぎってきたこの数ヶ月、ホントに、色々な人にごめんなさい。
ここでいっても無駄な気もしますが、とりあえず、謝らせて。。。

そして、このサイトも放置でごめんなさいデシタ。

パピコのCM見るたびに、罪悪感に駆られるのは、気のせいではないはずです。

うん、絶対に劇場公開までに、とりあえず中途半端なとこで放置になってる分だけでも、書き上げたい(願望)

そして、こんなただれた(?)生活送ってる成瀬の作を、今でも読んでくださってる皆様、ああ、ありがとうございます、幸せすぎて涙が出そうです。

なのに、フォームの対応が遅れがちですみませんでした。
とりあえず、昨日までの分は、配本システムの詳細請求、SPの小説サイトのPASS請求、秘密部屋のPASS請求には、全て対応済みです。

が!

結構、メーラーのサーバで、不振メールとして跳ねられている請求フォームが存在していたことが、先日発覚して、ビビリマシタ。
原因不明なんで、あれですが、PASS請求のお返事などがまだこねぇ!って方、多分、その不具合に見舞われたと存知ます。
お手数ですが、再度ご請求いただけましたら、幸いに存知ます。
ええ、今回は、どなたのメールもPASS請求のお断りはしておりませんので、みなさま、いいかたばかりで、NEWSみてたら、はぁ?って思うような事件ばかりなのに、ここにはこんないいかたばかりがいて、なぜ世間は世知辛いのか不思議でありません。

というわけで、あとは、感想フォームのお返事と、配本システムご利用いただいた皆様への発送(配信)対応が残ってますが、今週中には終わらせる予定ですので、今しばらくお待ちくださいませ。。。

本当に、お待たせして、申し訳ありませんでした。
そして、これからも、細々と続けていきますので、どうぞヨロシクお願い致します。

と、現在は、堺さんってか、子供(←超失礼)の頃から注目しまくってた(私って、犯罪者?って何度も思った、マジで)錦戸くんの競演から目がはなせない、成瀬でした。

うん、もうね、あと残すところ4話なのが許せないくらい、許されざる視聴者に成り下がってる危険人物な成瀬が、テレビの前にいます。
だって、もう、どうでもいいから、久遠くんがシアワセになれれば、あとはどうでもいいとか、思い始めてるくらい、重症。
だって、全員が幸せになんて、どう考えてもなれそうにないから(はい?)伊達さんも、来栖さんも、三上さんも、あすかちゃんも(いや、あすかちゃんだけは、とりあえず普通の人間で、普通の暮らしを営んで欲しいか。。。)ついでに(は?)課長も、幸せになれなくていいから、とりあえず、せめて久遠くんだけでも、シアワセにしてあげて。。。なんて、ほざいてる成瀬がここに。
普通に考えて、この面子で、一番幸せから程遠いところにいそうな人間にそう思う成瀬は、かなーり重症。

そんな馬鹿な考えしてるから、SPでも、最もシアワセになれなさそうな井上だけには、幸せになって欲しいとか、思うんだろうなぁ。。。
やっぱ、成瀬の頭はただれてる。。。

いや、でもね、どうしても、井上くんとか、久遠くんとかって、いい加減シアワセニならなきゃ嘘だと思うんですよ。
っつか、せめてこの子達だけは、シアワセにしてあげてって思う時点で、成瀬おかん思考(爆)

いいんだ、成瀬は関西人だから。
自分の子のおかんになれない分、他の子供におかんの愛情をそそいどくんだ!(←はなはだ迷惑)


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あけましておめでとうございます、…V6小説?(笑)『fiendish eye』(09’再録) [ぶいろく系]

あけましておめでとうございます。

っていうか、これを書いてる時点では、まだ年は明けてないのですが、予約でエントリできるんで、ソネットさん側に問題が起きなければ、年明け早々にこれがエントリされてるはずなんで、あけましておめでとうございます、・・・でございます。

さて、昨年も相変わらず、成瀬にとっての”しばらく”は、”1年”もかい!って突っ込まれそうなほどの遅筆を披露しまして、申し訳ありませんでした。
しかも、途中、ルーキーズやブラッディマンデイの二次創作小説にまで手を出して、そんな暇があるなら、他に更新すべきもんはあんだろ?って突っ込まれそうなのは、重々承知しておりますので、お許しください。

今年も、こんな感じで行くと思いますが(ヲイ、反省はないのか?)成瀬はそういう人間と思って(ええ、最初からこのページにお越しいただいてる皆様なら、すでに10年越しのお付き合いですから、ご存知だと思いますが、あははは。。。)あきらめの境地、・・・いや、失礼しました。
広い心をお持ちの皆様だけ、どうぞ暇なときだけでも、ちょこっとのぞいてやってくださったら、もしかしたら、更新されているかもしれません(待てコラ)

そんなこんなな新年のご挨拶だけでは申し訳ないので、下記に、V6小説のあけおめバージョンを載せておりますが、例によって例のごとく、注意書きが2点ございます。(ただし、再録分になりますので、既読のみなさまごめんなさい)

まず一つ目。
V6パロディ小説は、このブログの本家であります「出せない手紙」サイトの冒頭にも記載されておりますとおり、実在の人物、団体等と一切関係はございません。
あくまで、一ファンであります成瀬の空想の産物でございますので、その点をまずご了承いただきたいことと、今回の作品は上記の「出せない手紙」サイトに載せてあります「天使たちの探偵」シリーズの番外編として書いておりますので、人物設定に関しましては、そちらをご参照ください(←不親切)

そして二つ目。
下記作品は、ブログがこれほど普及する何年か前、成瀬がサイト内のPASSをお持ちの方だけがごらんいただけるページ内の日記で、新年のごあいさつ代わりに掲載させていただきました作品になります。
したがって、ありがたいことに、長年こちらにお越しいただいてる方には、すでにごらん頂いてる方も、多数おられると思われますので、その皆様には大変申し訳なく思っておりますが、時間のなかった成瀬をお許しください。

では、上記をご了承いただける方のみ、下記からどうぞ。。。

スタート

--------------------------

『 天使たちの探偵  』Side story

// fiendish eye //

 

「あああ…、俺も世間様並の、お正月がしてぇ!! 」


時は、2010年1月1日の、午後7時。


ちゃっかり、…というか、しっかりというか。


神奈川県警ご用達、…とまでは言わないまでも。
ここの職員の半数以上が、間違いなく一度はお世話になったことのある、お弁当屋の親父さんが、今朝方、売り物でもない大荷物を抱えて、
『元旦から仕事なさっている皆さんへのお年賀代わりに』
と、冗談を交えながら持ってきた御節料理の数々を、無駄な言葉ばかりが回転し続ける口に、その回転速度と勝るとも劣らないスピードでさっさと箸を動かして、それらを片っ端から頬張り続ける井ノ原の後頭部を、
「煩い」
との言葉も添えて、パカンと一つ叩いた。

まあ、ちょうど今日の昼時に、朝それが届いてから、
「早く食べよう! 」
と、うきうきしていた井ノ原の想いが、緊急出動要請が入ったことで、無常にも打ち砕かれてしまったことをしっていたから、この夕食時に、今度こそ…との想いを抱いていたことは、知っている。

しかし、だ。
物事は、時と場所を選ぶべき、…だろう。

こいつの頭の中に、TPOなんて言葉がインプットされているかどうかは、些か疑問ではあるが。



「痛いよ、坂本君…」

と、左手で殴られた箇所をさすりさすりしながら、それでも右手の箸は手放さず、かけたソファから首だけでこちらを向いた井ノ原に、
「てめぇだけちんたら食ってないで、茶でもいれてこい」
と、そこから追い払った。

こちとら、新年早々起きた事件、…といっても、一体何を考えているのか。
初詣の人でごった返す神社のど真ん中で、一組の男女が、散々罵倒しあって、挙句に凶器の包丁まで振り回す…という、どうせ些細なことでキレタ男女の、はた迷惑な痴話げんかだと思われる傷害事件の現場に。
たまたま居合わせた長野と健と准一を、順番に調書を取り終えさせて、刑事部屋に連れ戻ったばかりなのだからと、その三人を、井ノ原の退いたソファに座らせた。

なぜ、ただ初詣に来て、その現場に居合わせただけ…のはずの彼らを、事情聴取しなければならなかったのかというと。
正月特別警戒で、どこも人手不足の所轄から、応援要請を受けた俺と井ノ原が駆けつけたときには、すでに、初詣客の衆人環視の元、とても女性の口からでているとは思えない罵詈雑言を叫び続ける20代後半の女性を、健と准一が押さえつけていて、彼女が振り回していた、…との証言を受けた凶器の包丁を片手に、反対の手で項垂れる男を形だけ、…とばかりに取り押さえる長野が、そこに居たから、…なのだが。

結局、駆けつけた俺たちが何をするでもなく、現行犯逮捕となった女性も、彼女に凶器を持ち出させるほど、平手打ちで先に手を出していた男性も、県警に連れてこられたとたん、急に大人しくなって、
なんでもないとか、
お騒がせしましたとか、ナ
ニがしたかったわけ? とこちらが聞きたくなるくらい、わけわかんないこと言い出す始末。

まあ、被害者が出たと言うわけでもなく、身元照会をしたら元夫婦だという二人に、これ以上せっついても、元夫婦による、犬も食わない夫婦喧嘩が大げさになってしまったもの、…程度の認識である以上、起訴する必要もないと見て、今年銀婚式を迎える刑事課のベテランデカさんに、夫婦たるもの、…まあ、彼らの場合”元”がつくが、…を語ってもらい、こってりお灸を据えてもらってから、そのまま返すしかないか…ってことに収まったのだが。

応援要請が入ったときは、大勢の人でにぎわう初詣の会場で、包丁を持った人間が暴れている、…だっただけに、すわ、正月ムードをぶち壊したい、凶暴な通り魔的犯行か? と、制限速度一杯一杯でパトカーを走らせたのがバカらしくなる位の
そんな事件でも、報告書を上げないことには、どうにも収まりのつかないお役所体質に嫌気をさしながら、長野たちの調書を取らざるを得なかったのだ。




「しかしまあ、正月早々、長野君たちも災難だったねぇ? 」

ソファに座る3人に、お茶を出しながらそういった井ノ原に、
「それはもう、いわんといて」
と、ため息混じりに返した准一と、
「ごめんね、僕が初詣に行きたいなんて言ったばかりに、こんなことになっちゃって」
と、ソファの上で、もともと華奢な身体を、尚一層小さくした健が、答えた。


そもそも、相変わらず仕事に精を出している健の父親が、年末から年始にかけて、仕事で海外を飛びまわっているとの情報を聞きつけた准一が、それならばと、冬休みに入るなり、健の家でぷち合宿(というのは、俺が名づけたのではなく、
長野が…だ)に入った為、31日まで仕事をしていた長野と、今朝合流して、初詣に行った…まではよかった。

いや、行ったのが、いけなかったのか?

とにかく。
事件が起きたのはお昼前ではあったが、込み合う道路事情も考えると、初詣には朝から出かけていたはず…なのだが、いかんせん、今は既に夜の7時を回っているのである。

愚鈍な警察、…とありていにいわれても仕方がないような、時間のかかりように、俺は、
「わるかったな」
と、事件を未然に防いでくれたはずの、感謝されてしかるべきな善良な市民…と、呼びがたい人間も、約一名含んでいるが…を、元日に、こんな時間まで拘束していたのでは、警察組織を代表して、謝るしかないだろう、…といったところだ。

ちなみに、長野を筆頭に、昼も夜も…間違いなく、くいっぱぐれているはずの面々だが、健と准一は、お腹がすきすぎてか、もしくは疲れすぎてか、すでにグロッキー状態。
目の前に並んでいる御節に、箸を伸ばすそぶりも見せなかった。

代わりに、准一が、
「坂本君のせいやないよ」
とだけ、答えてくれたが。
健にしろ准一にしろ、もう…とりあえず早く帰って、お風呂にでも入って、あったかい布団で眠りたい…といった表情を、顔面に貼り付けていた。

それが長野もわかっているのか、事件現場で出会ってから、今現在に至るまで、必要なこと以外一切口を利かなかったくせに、ソファに埋もれている二人に、
「二人とも。タクシー拾って、早く帰って休んだらいいよ」
と、覗き込むようにして、声をかけた。

いや、長野が、自分の望むと望まざるに関わらず、事件に関わってしまったとき。
それが、長野自身が受けた調査中の案件、…でなければ、絶対に、無駄口は一切叩かないのは、いつものことだった。
仮に、自分の調査対象を追っていて、何かの事件に関わったのであれば、事件の一刻も早い解決を目指して、自分の能力を、惜しげもなく俺たちに貸してくれるのである。

その理由を知っていた俺は、今日長野に逢ってから、その態度に、始終困惑気味な表情を見せていた井ノ原を適当にあしらい続けていた。

考えてみれば、長野が調査対象と全く関係のないところで、今回のように事件に巻き込まれたところに俺たちが居合わせたのは、井ノ原にとってみれば、これが初めてのことだったのか…と、今更ながら、そんなことが一瞬だけ、頭をよぎったが、今は目の前の疲労困憊な少年たちをなんとかする方が先だろうと、その思考は、ひとまず脇に追いやった。

言われた健は大人しく、
「うん、そーする」
と、覇気のない口調で答えたが、ふと顔を上げた准一は、
「長野君はどないすんの? 」
と、尋ね返した。

なかなかに鋭い准一のその言葉に、となりの健はきょとんとした顔をしていたが、言われた長野は、苦笑いを浮かべると、
「ちょっと用事があるから、先帰って休んでて」
と、答えた。

「用事…って。長野君ずっと働きづめやん。僕ら冬休みやゆうて、遊びまわってたけど、長野君はその間もずっと仕事してたやろ? せやのに、その間にクリスマスやゆうて、ディズニーランド連れて行ってくれたり、今朝かて、朝方まで仕事してたんやろ? 
で、寝てて良かったのに、僕ら初詣連れて行くために、車だしてくれたんやん」
「それで事件に巻き込まれてたら、世話ないわな」
「坂本君っ!! 」

本当に申し訳なさそうに。
探偵事務所なんぞにお世話になっているからか、はたまた生来のものなのか、妙に鋭い感性の持ち主の准一は、実は黙っていたけれど、長野の無理、…っていうか、無茶を知っていましたよ、といわんばかりに指摘したので、俺が笑いを取ってやろうかと思っていってやったのに。
その当人から、でっかいお目目に不似合いな怒りのオーラをともして、見上げられてしまった。

が、それをフォローしてくれたのは、珍しく。
そう、本当に珍しく、長野だった。

ただし、そんなフォローのされ方だったら、されない方が良かった…と思える、言いようだったのだが。

「ホント、坂本君の言う通りだよ。今日のことは、俺の責任。
もっと早く、ただ殴り合いみたいになってるだけのあの場で、もっと上手く収める方法もあったのに。
でも、二人を巻き込みたくなくて、彼女が凶器を取り出すまで、つい動くのが遅れてしまった。
そのせいでこんな大事になっちゃって、…ごめんね。
だから、俺のことは気にしないで。
とにかく、今日は早く帰って、ちゃんと休んで、ね? 」
「でも、長野君は? 」
「ん? 明日には帰るから」
「朝帰りかよ」
「……この場合、坂本君は黙ってたほうが…」

俺が茶々を入れると、それを眺めていただけの井ノ原は、横から恐る恐るそう口にしたが、俺はそれに無視を決め込んで、話に参加した。

「そんな睡眠不足間違いナシの人間に、車運転させた日には、三人そろってあの世行きだろうからな。
大人しく、お前らはタクシーで帰った方が、身のためだぜ」

といってやると、俺の意図を察したのか、准一は不承不承といった感じで、健を伴って立ち上がった。

「ほな、僕らは帰るけど…」

そう言った准一が、あまりに心もとない顔をしていたからか、井ノ原が、
「パトカーで送って行こうか? 」
と、提案したが、言われた准一は、
「井ノ原君も、まだ仕事中やろ? ええよ、そんなん。
そこの大通りでタクシー拾うし、この時間やったら、すぐにつかまるやろ」
と答えて、刑事部屋の出口へ向かった。

いまいち状況の呑み込めていない健は、首をかしげながらも、そんな准一に大人しく腕をひかれていったが、扉の向こうに出て行く瞬間、ちらっとこちらを振り返った准一は、不安そうに長野にいった。

「明日、…何時になってもええけど、帰ってきてな。
明日は健君と、長野君のマンションで、待っとおから」

まるで、不実な恋人を待つ、薄倖の女性が呟きそうな台詞に、長野は困ったような笑顔を見せて、
「わかったよ」
と、答えた。

「でも、帰りは車のったらあかんよ。どうせ今日も大して寝られへんのやろ? 
それで運転するなんて、言語道断や。
ほんまに事故ったら、坂本くんのええ笑いもんになるだけやで? 」

准一の、若干失礼な物言いは、今日は元日だし…と、聞き逃してやることにして、
「そうだそうだ」
と、彼の援護射撃をしてやった。

すると、言われた長野は、軽く笑い飛ばしてから、答えた。

「大丈夫、そんな命がけで笑いを取るつもりはないよ。
オレ、関西人じゃないから」
「それって、ものすごい関西人に対する、偏見やで? 」

長野の軽い受け答えに、ようやくほっとした表情を見せた准一は、
「ほな」
と、小さく頭を下げて、刑事部屋を後にした。




彼らの後姿を見送っていた長野は、ようやく視線を俺に向けて、井ノ原に出された茶をすすりながら、言った。

「彼女、…どうなるの? 」
「ああ。状況が状況だしな。…現行犯だから、一日泊まっていってもらうことにはなるだろうけど、48時間後に起訴するだけの事件でもねぇから、明日には帰れるんじゃねぇ? 」
「そう。…なら、よかった」

この後用事がある、…といった長野が、何をしようと、いや、何がしたいと思っていたのか、大方の予想がついていた俺は、よかったといって、あからさまにホッとした表情を見せた長野を見て、その自分が思っていた予想が、当たっていたことに、安堵していた。

長野は、知っている。
彼女たちが、なぜ、あんなところで痴話げんかを始めたのか。
それがエスカレートして、あんなことになってしまったのか。
そして、その結果警察に連れてこられた時点で、いきなり大人しくなって、一刻も早く帰れるようにと、こちらのいうことに、ハイハイと頷いたのか。

そして、実のところ、養育費の不払いで揉めていた、元夫婦である彼女たちの間に、まだ小さな子供が二人居ることを。
長野は、知っている。

ただ、それを長野が語ることはなかった。

俺は、彼女たちの身元照会や、一応聞き込みに行かせた刑事たちから得た情報で、大方の状況をつかんだに過ぎないが、あの場に居合わせた長野は、彼女たちの話の節々で、その様子で、それと同じだけ、…もしくはそれ以上の情報を、長野が知っているであろうことに、俺は気づいていた。

けれど、長野は決して、自分が目にした事実以外、誰にも語ろうとはしなかったが。

その用事とやらを、大手を振って、長野にやらせてやるために、俺は口を開いた。

「なあ」
「…なに? 」
「仕事、頼みてぇんだけど」

俺がそういうと、先ほどまで満員状態だったソファではなく、その横に椅子を引き寄せて座っていた井ノ原が、不思議そうな顔をして、俺を見ていた。

「いいよ」

長野の即答に、今度はそちらへぐるんと首を回した井ノ原は、ぱかぱかと音の出ない口を動かしていたが、俺は長野に依頼内容を手短に話した。

「あの元夫婦の間には、子供が二人いてさ。
彼女が引き取って育ててるんだけど、今日はアパートで留守番してたんだけどさ、
もう、こんな時間だしな。
一応、生活安全課で預かってる。
でもな、今の時期どこも手一杯でさ、ゆっくり見ててやれねぇの。
だから、彼女の了承もとってるし、その子供ら家に連れて帰って、彼女の代わりに、今夜一晩だけ面倒みてやってくんねぇかな? 」

親が警察に捕まって、平気でいる子供なんていやしない。
まして、今日は1月1日だ。
こんな日から、幼い子供二人を…例え、その子たちのためだったといえども、…放っておかなければならない立場に陥ったのは、彼女自身の責任ではあるが、その子供に、罪はない。

俺がそう言うと、長野は思案したような顔をして、
「……ずいぶんと甘やかされてるよね、俺」
と、井ノ原にとっては、明らかに意味不明な一言を吐いてから、
「わかった」
と言って、ソファから立ち上がった。

「手続きは、生活安全課のやつらに、話通してるから。
おまえの名前だけ言や、すぐに手配してくれる」

俺の言い添えた言葉に、
「うん」
とだけ返した長野は、
”なんのことだかわかりません!”
って気持ちを、顔に大書きしている井ノ原に、曖昧に微笑んでから、
「じゃあ」
といって、部屋を出て行った。 



長野が出て行ったそこを、穴が開くほど見つめた井ノ原は、椅子をガラガラ鳴らして俺に近づき、なぜか小声で、
「どういうこと? 」
と、聞いてきた。

俺は、苦笑交じりに、もともと彼が座っていた場所へ座りなおすよう言ってから、
「続き、食えよ」
と、せっかくの好意で届けられたそれを無にするのは信条に反するので、この状況で先ほどと同じようなくいっぷりを井ノ原が披露できるとも思えなかったが、目の前に広げられた御節を指差して、自分は胸ポケットに入れていたタバコを取り出した。

「あいつ、探偵だろ? 」
「いや、それは俺にもわかってるって、坂本君」
「で、その探偵としての長野を動かすには、”依頼”っていう、大義名分がいるんだ」
「大義名分? 」
「そう。”依頼”っていう名の大義名分がなきゃ、あいつは動けないんだよ」
「は? …ってか、長野君は依頼なんかなくっても、なんでもしてくれるっしょ? 
そもそも子供のお守りが、探偵に依頼してまでする仕事とは思えないけど? 」

井ノ原の疑問も最もだ。

なぜなら、長野は誰にでも優しい。
本当に、なんでそこまで…と、みているこちらが、心底嫌になるくらい。
たとえ、そこに見返りがなくても、自分の力を、惜しまずに注いでやれる、そういう優しさを持っている。

それは、違うことなき事実だ。

でも、俺が話すことも、また、事実だった。

「あいつは、なんでお守りが必要なのかも、彼女がなんであんなことしたのかも。何が気がかりで、ここに連れてこられたとたん、急に大人しくなったのかも、全部知ってる。
…それは、探偵としての長野が、あの短時間で気づいたことで、…そこに、裏づけはなにもない。
俺が、捜査課の連中に、聞き込みに行かせて手に入れた情報と長野が気づいたことが、結果として同じだったとしても、長野が知りえたことは、事実じゃない、推論だ。
だから、あいつはそれを、俺らに一切口にしなかった。
しない為に、必要最低限のことしか、語ろうとしなかった」
「でも、いつもは、”俺の推論だけど”って、俺らに協力してくれるじゃん。
なんで、今日に限って」
「そう、なんで今日に限って、だんまりを決め込んでたのか。
理由は一つだ。
…そこに、依頼がなかったから」
「へ? 」

とぼとぼと動かされていた箸は、ものの見事に動きを止め、そこに挟まれていた数の子が、ぽとんとテーブルの上に落ちたのも気づかず、井ノ原は俺を見ていた。

「誰かからの依頼がない限り、長野は動かない。
…いや、動けない」
「や、でも…」
「今日だって。
…さっき、長野もいってただろ? 
あいつは、彼女が凶器を取り出す前に、こうなるだろうことは、予想できていた。
けど、動かなかった。
…あの二人を巻き込みたくなかったってのも、事実だろう。
でも、それ以上に、動かなかったんじゃなくて、ホントは動けなかったんだ」
「なんで、そんな」

俺は、テーブルの上に落とされたままになっている数の子を、手近にあったティッシュで拾い、横のゴミ箱へ投げ入れた。
親父さんには申し訳なかったが、最後にいつ拭いたのかわからないような、哀しくなるくらい粗雑に扱われている捜査課のテーブルにじかに落ちた食べ物を食べる勇気は、俺にはなかった。

そして、そんな俺を黙って見ていただけの井ノ原に、俺は話しの続きをした。

「長野は、怖いんだよ」

俺がそう言うと、井ノ原は彼の細い目を、コレでもかと言わんばかりに、驚きのあまり押し広げた。

「依頼がないと、怖えぇんだ」
「……何が? 」
「自分の力が」
「え? 」
「あいつはある意味、俺たちにはない力を持ってる。
あいつの目は、俺たちのそれと、明らかに違う。
…俺たち凡人には、到底見通すことの出来ない、そういう見えないものを見る力がある。
もちろん、超能力っていう意味じゃなくてな」

俺が苦笑いを浮かべてそう言うと、井ノ原も
「うん」
と、力なく返事をした。

「で、もしそれをフルに使ったら、どうなると思う? 」

俺の問いかけに、一瞬だけ宙に目をやって、考えるしぐさをした井ノ原は、何かがすとんと落ちてきたような顔をして、俺に答えた。

「えーっと、頭使いすぎて、ショートする? 」

俺は、井ノ原の表現に、声に出して「ははは」と笑った。
笑われた井ノ原は、当然のことながら、あまりいい顔はしなかったが、ふてくされた様子で、止まっていた箸を動かし、黒豆を起用につまんで、口に放り込んだ。

「あんだけ驚異的なスピードで頭使ってたら、それもアリだろうけどな。
でも、許容量超えてショートしてくれるんなら、まだいい。
そうなったら、自分の中でこれ以上はだめだって、ブレーキがかかって、自分の中のブレーカーを落とすだろ? 
したら、暴走は止まる。
それ以上のショートは起こらない。
けどな、あいつの中に、ブレーキはない。
一度走り出したら、真実を突き止めるまで、走り続ける。
例え、何が起きようとも」
「それは…」

いい指した井ノ原は、ふと黙った。
長野をして、そんなことはないと、そういいきれない自分に気づいたから。

「あいつの中のブレーキは、他人はおろか、あいつ自身だって、そう簡単に踏むことは出来ない。
そうやって、それを踏める人間が居ない以上、走り出す為には、”依頼”っていう、免罪符がいるんだ。
それがなくて、なんでもかんでも真実をあばいていったら、それは、ただの自己満足だ。
イヤ、暴かれる側から言ったら、なんでも見通されている、悪魔みたいなもんだな」
「それは違うでしょ? 」
「いや、本人はそう思ってるよ。
…だから、依頼があれば、その真実を突き止めたときに、ようやく止まることができることもわかってる。
”依頼”があるから、それを終えたときに、あいつのブレーキを踏ませることができるんだ」

そこで言葉を切った俺に、井ノ原は眉根を寄せて、箸を持った右手をそっと口元に当てていた。

「だから長野は、依頼がなきゃ動かない。
そうしなきゃ、自分の目に映るもの全て、暴いちまうからな。
その裏に潜む、隠しておきたいような、真実でさえも」
「でもそれは…」

そう、それは正しいことだ…と、井ノ原は言いたいのだろう。
確かに、それが真実であるならば、長野のしようとしていることは、正しいことのはずだ。

ただ、正しければなにをしてもいいのか、…といわれれば、その答えは、きっとNOだ。

過ぎた正しさは、時に、人を傷つける。

それを長野は知っているから、自分に”依頼”という枷をつけたのだろう。

それがなけれな、動かない、…と。


けれど、そのことをいまいち納得できていない井ノ原は、不満そうな顔で、俺を見ていたので、俺は話を続けた。

「たとえばコレ」

俺はそういって、自分が取り出したタバコに火をつけるため、左手に持ったライターを、井ノ原の眼前にかざした。

「俺が今使っているライター。
俺はこれを、その辺の100円ショップで買ってきたわけじゃない。
いつも行っている、角のタバコ屋のおばちゃんに、”ないしょだよ”といわれて、カートン買いする客用に用意してるそれを、ただで貰ったんだ。
不精ですぐどっかやっちまう俺は、いつもたったヒト箱づつしか買わないのにな。
……もちろん、そこに他意はない。
懐具合がよろしくない刑事の職を知っての、ただの親切心だ。
大体、あそこの爺さんも、元警官だ。
賄賂を生活安全課の連中に、どうやって渡そうか、日夜手を変え品を変えやってる風俗店の店長じゃねぇんだから、俺にコレ渡して、なんかの利益にしようなんて、おばちゃんは爪の先ほども思っちゃいねぇよ」
「そりゃまあ、そうでしょ? 」
「けどな。
もしも、あのタバコ屋のおばちゃんと、見ず知らずの人間が、同時に助けてくれって叫んだとしたら、俺はきっと無意識にでも、タバコ屋のおばちゃんの方を先に、助けに走っちまう。
…そのときに、このライターのことなんて、頭の隅にもないだろうけどな。
でも、人間ってのは、そういうもんだろ? 」
「まあねぇ」

井ノ原はのんびりとそう答え、俺が吐き出した紫煙の先を眺めてから、箸につまんだ伊達巻を、半分に切っていた。

「で、お前が今食ってる御節だってそうだ」

俺がそう言うと、つっと顔を上げた井ノ原は、不思議そうに俺を見た。

「それの出所を、知らねぇわけじゃ、ねぇんだろ? 」
「あ…」

朝、弁当屋の親父さんがこれをみなさんで、って持ってきたときに、先頭切ってありがたがっていたのは、当の井ノ原だ。
だから、俺の指摘に、井ノ原は罰の悪そうな顔をして見せた。

「当然のことながら、あの弁当屋の親父さんも、ウチに付け届け…と思って、これを持ってきたわけじゃない。
こんな日に狩り出されてるのは、どうせ家族の居ない独りもんで、家に帰ったところで正月らしいものにありつけるわけがない。
だからこそ、休みは家族もちに譲って、仕事に出てきてるってなもんだ。
そんな、元日なのに、正月らしいことなんもできてない俺らに、少しでも正月らしいことをと思って、善意で持ってきてくれたんだってことは、百も承知だ」

俺の言葉に、井ノ原は大きく頷いて見せた。

「けどな、俺らだって、そうやって親父さんになにかと世話になってるって気持ちがあるから、ウチは…っていうか、ウチの交通課は、あの親父さんが昼時に、ここの前の道路にワゴンで弁当売りに来ても、取り締まらねぇだろ? 
……そういうことなんだ」
「…………」
「だからって、そういうの全部だめ…っつったら、生きらんねぇだろ? 」
「そだね」
「でもな、長野だったら、そうしない」
「え? 」
「もし、…そうだな、お前が他の誰かと同時に、長野に助けてくれって叫んだとしたら、あいつは必ず、お前じゃなくて、みもしらねぇ人間の方を、先に助けに行く。
何でだと思う? 」

俺がまたそうやって井ノ原に質問を投げかけると、今度は箸先を咥えたまま、うーんと考える顔つきをして、答えた。

「そりゃ、俺は警察官だし…」
「そうじゃねぇよ。
…長野の本心は、お前を助けたいんだ。
でも、あいつはそうしない。
お前を助けることで、助けられなかった方の人間が出たとする。
したら、あいつはその責任を取ることができないからだ。
名前も知らないような赤の他人に、責任の取り様もない。
けど、お前だったら、まだ償う方法があるかもしれない、…そう思うから、あいつはお前を後回しにする。
本当は誰よりも助けたいって思っているのに、身内は後回しだとばかりに、己の心を切り捨ててな。
……そんな責任、背負い込む義務なんてねぇのに、あいつはそうするんだ」

井ノ原は手にしていた箸を置いて、顔を上げた。

「確かにやりそうだね、…長野君なら」
「だろ? 
それにな、もしも俺がなんらかの罪を犯したとしたら、長野は平気な顔をして、それを暴くんだ」
「へ? 」
「たかだか、御節一つで、道交法の違反を見逃してやってる神奈川県警と違ってな。
長野は、10年来の親友ですら、躊躇なく真実を暴くんだ。
もし仮に俺がなんらかの罪を犯したとしよう。
したらお前らはきっと、そこになんか理由があるんだとか、それがなんもなかったとしても、どうにかしてそれを取り繕うとする。
隠すか、もしくは少しでも不利な状況だけでも取り除こうと、躍起になる。
…だろ? 」

俺が上目遣いにそう聞くと、自信なさげな顔をした井ノ原は、顔を俯けてぽそぽそと話した。

「……どうかな? 
でも、目を瞑る、…かもしれない」
「多分、皆そうするんだ、普通はな。
……けどな、長野は俺の犯した罪を暴く、俺が辞めてくれって止めたとしても、絶対にやめない。
その先に何が待っていようとも、その全部を背負う覚悟で、真実をひきづりだしてくる。
…まるで、それがなんでもないことのように、嫌になるくらい冷静にな。
で、後から、ひとかけらの後悔をすることもない」
「いくらなんでも、それはないっしょ? 」
「いや、ある。
…後悔ってのは、そこに改善の余地があったから、あとになって悔やむんだ。
ああしてればとか、こうしてればとかってな。
他の選択肢があったのに、それを選ばなかったことを、後悔する。
イヤ、他に選択肢があったからこそ、後悔できるんだ。
けど、長野の場合、それはない。
どうやったって、真実はたった一つで、それは、必ずそこにあるものだから。
それを曲げることを、あいつは絶対に、自分に許さない」
「でもそれって…」

”ツライじゃん…。”
井ノ原の言いたかった、その言葉の先を、俺は目を閉じて、言わせなかった。
代わりに、俺が口を開いた。

「許さないからこそ、長野が、長野たる所以なんだ」
「…そっか」
「だから、長野を動かすには、”依頼”って免罪符を与えてやらなきゃいけないんだ。
それがあれば、あいつは自分の力を振るうことの罪悪感から、少しでも解き放たれる。
逆に言うと、それがなきゃ、あいつはいつか、その力に呑み込まれる」
「うん」
「まあ、言った所で、長野の中でそれは、全部無意識なんだろうけどな。
…案外、こんなに気をもんでんのは、俺の勝手かも知れねぇし、長野は俺が思ってる以上に、もっと靭いのかもしれない。
ただ、俺は自分の不安を打ち消したいだけなのかも知れねぇって思ってたんだけど…」
「けど? 」
「けど、今日の准一みてたら、俺の杞憂でもなさそうだな…って、思った」

今、長野の一番近くに居るのは、准一で、その准一は、長野自身が、自分と似ているといったのだ。

だから、その准一の反応を思い出したように、遠い目をしていた井ノ原は、
「あー」
と、なんだかわけのわからない声を発して、納得していた。



今日は一体どうしたことか。

ひょんな切欠から、正月早々こんな、あまり楽しいとは言いがたい話をする羽目に陥ったことに、小さくため息をついてから、明日の朝までに報告書をまとめなければと、そこから立ち上がりかけた。

と、そのとき、夕飯時で、出払っていたはずの刑事部屋が遠慮がちに開いて、
「坂本君、ちょっといい? 」
と、既にここを出て行ったはずの長野が、そこから顔を覗かせていた。

俺は慌てて、ドアの傍に駆け寄り、お茶に手を伸ばしていた井ノ原は、ぶーっと口に含んだそれを噴出さんばかりの勢いで、立ち上がった。

そんな俺たちの様子に、若干物憂さげな表情をしてみせた長野は、それでもそのことを深く追求することなく、両手に…というか、頭自体が長野の腰までない背丈のせいで、長野の両足に纏わりついている二人の子供の肩に手を置きながら、俺に尋ねた。

「ねえ、お正月って…普通、どういうことするの? 」

長野の質問に、
「はぁ? 」
と、答えたのは、俺だけではなく、その隣にかけてきた井ノ原の声も、当然のごとく、重なった。

「この子達に、今日だけ俺がお母さんの代理で、お正月を一緒に過ごそうねっていったら、お正月ってなにするの? って聞かれてね、俺もわかんないから、聞きに来た」
「…お前、バカ? 
って、痛ってー!!」

もちろん、俺が言いたかったのは、”バカ”であって、後の”痛ってー”は、俺の本意ではなかった。

けど、俺にバカといわれた長野に反撃されたのではなく、なんと、その足に纏わりついていた、ガキに。
ああ、もう、こうなったら、そう呼ばせてもらおう。
その、ガキに、俺は思いっきり向こう脛を蹴り飛ばされて、先ほどの叫び声…と、相成ったのだ。

ここが県警本部でなきゃ、ぶっ殺すぞ、このガキ。
と、内心悪態をついて、蹴られた足を、なでさすった。

「大丈夫? 」
と、あまり気にしてない風に聞いてくる長野を無視して、俺を蹴ったガキを見下ろすと、全くもって嬉しくはないが、怖い怖いと評判の顔で、存分ににらみを利かせてやったのに、そのガキは、それに臆することなく、俺を見上げるようにして、睨み返してきた。

けど、くっついてる長野の足は、ぎゅっと握り締めていて。
それで、ああ、こいつは長野がいるから、こんなに虚勢を張っていられるんだな…と、漠然と思ったので、やり返すのだけは、辞めておいてやった。

一体何を言って、手なずけたのやら。
そういったら、なにもしてないよ、人聞き悪いこと、言わないで! って怒られそうだが、俺のことを親の敵(まあ、この場合、そういえなくもないが)とばかりの目で、
睨み付ける子供が頼っているのは、そのつかまっている長野の足だけ…といった状況に、嘆息して、話を元に戻した。

「で、正月がなんだって? 」
「だから、お正月って、どういうことすればいいんだった? 」
「んなこと、それぞれの家で多少差があるんだから、こいつらの家どおりに、やりゃあ、いいだろう? 」
「うん。だから、聞いたんだけど、お正月こそ稼ぎ時だって、毎年お母さんは仕事に出てるし、夜帰ってきたらそんなだから、疲れて寝るだけで、何をするのか、知らないっていうんだよね」

淡々と語る長野に、俺はその脚に芋虫のようにくっついている二人の子供に目をやってから、
「あっそう」
と、返事を返した。

今ここの留置所に拘留されている彼らの母親は、今日、くだんの神社でテキヤの手伝いをしていた。
で、自分は子供を初詣にも連れて行けず、せっせと額に汗して…かどうかは不明だが、…働いていたのに、目の前をのんびりと歩いていく参拝客の中に、養育費の支払いを延ばし伸ばしにしている元夫をみかけりゃ、そりゃ、文句の一つも言いたくなることだろう。

ちなみに、凶器の包丁は、彼女がその直前まで、焼きソバ用のキャベツを刻んでいたものだった。

どこの家にでも、家庭の事情とやらがある。

それに口を出すほど、俺は暇人じゃないので、俺は井ノ原を長野の前に押しやって、
「教えてやれ」
とだけいって、元のソファに戻った。

言われた井ノ原は、
「え、俺?? 」
とか呟きながらも、長野に話しかけた。

「じゃあさ、この子たちの家ルールじゃなくて、いいじゃん。
長野君流で」
「だから、それがわからないから、聞きにきたんだってば」
「は? ってか、わからないって、ナニ? どういう意味? 」
「あー。ごめん、わからないって言うか、忘れた」
「え? 」
「お正月に何するのかなんて、忘れちゃった」
「忘れたって、…長野君? 」
「だって、最後に御節なんてものを食べたのは、気が遠くなるくらい昔のことだし。家族そろっての正月ってのも、おんなじでしょ? 
そもそもウチは、父親がカメラマンなんて、親族一同からすると、胡散臭いことこの上ない仕事についてたから、両親が生きていた頃ですら、親戚一同正月に集まって…なんてことも、なかったし。
だから、忘れた…っていうか、元々あんまり知らないのかもね」

まるで、なんでもないことのように、さらっとそんなことを言ってのける長野を、井ノ原は目を白黒させながら、見つめていた。

見つめた先の長野は、俺からは見えないが、恐らく、何も浮かべていない、…凶悪なほど透明な瞳で、上目使いに、井ノ原を見返していることだろう。

ついでに、いつものごとく、小首を傾げてるのかもしれない。

それが、どんな力を持っているのか、無自覚なままに。

そして、そんな目をされている井ノ原は、当然のごとく、それに逆らうことは出来ないので、「あー」とか「うー」とか唸ったのち、どこかから紙袋とタッパを持ってきて、刑事課に飾られている鏡餅と、お神酒のセット、それに誰が生けてくれたのか、課長の机に置かれたなんてんの実を手早く紙袋にいれると、今度は、先ほど自分が突付いていた御節料理から、まだ箸のつけられていないところを上手にタッパに取り分けて、それも袋の中にしまった。

その動きが、妙に手早くて、それだけ出来るなら、普段からやれよ…と、思ったのは、今日だけ俺の胸にしまっておいてやることにした。

あの瞳で見つめられたら、なんでも用意したくなるんだろうなぁ。

なんて、のんきに思ったりして。
っていうか、そんだけ刑事課の備品(?)を強奪できる厚顔を、褒めてやるべきか?
これらがなくなった言い訳を、明日の朝までに井ノ原が無事考え付くかどうか…かなり難しいところだがな。

「これ、持って帰って。まず、鏡餅は、三宝に乗っけたこのままの形で、どっか、…そだね多分床の間なんて、アパートにはないと思うから、テレビの上にでも飾ればいいから。
あ、橙は、落ちちゃうけど、飾るときちゃんと上に乗っけてね。
ウラジロはここに。
で、鏡開き…っつって、この餅食べるのは、11日だよ? 
ちゃんとお母さん帰ってきたら、11日にやってね」

袋の中にしまわれたそれらに、手を突っ込んで説明している井ノ原を、俺はタバコをくゆらしながら、眺めていた。
こういうことは、俺より井ノ原の方が、向いている。

「それからお神酒は、未成年がお酒飲んじゃだめなんだけど、コレだけはOK。
でも、一口だけね。
飲んだら、今年一年、神様が守ってくれるから」
「飲まなかったから、だめだったのかな? 」

井ノ原がそう説明している横で、さっきまで黙りこくっていた、俺を蹴ったやつと反対のところに立っていた少年がそういった。
そのこの頭を、長野がそっと撫でてやると、くすぐったそうに、首を引っ込めて、嬉しそうに笑った。

「あ、けど、長野君はやめてた方が、いいかも? 
コレ、結構度数高いから」
「わかった」
「で、飲んだら、これもテーブルの上とかでいいから、飾っておいて。
正月三が日にだれかお客さんが来たら、出してあげてね」

井ノ原がそう言うと、子供たちは素直にこくこくと頷いた。

「で、コレ。
この赤い実はね、南天っていって、不浄を清めるっていう意味があるんだ」
「不浄? 」

子供たちが、首をひねって、問い返した。

「あ、わかんないよね。
えーっと、悪いことから守ってくれるって感じかな? 
だから、おうちの鬼門に飾っておいて。
って、鬼門がわからないか。
まあ、いいや。
とりあえず、目のつくところに、飾っておいてくれたら」

井ノ原の言に、聞いていた三人は、素直にうんうんと頷いていた。
つまり、長野は、お神酒は知っていても、南天のことは知らなかったってことだろう。

「そんで最後コレ。
おせち料理ね。
食材一つ一つにいわれがちゃんとあるんだけど、ごめんね、手をつけないで残ってるのしか入れられなかったから、雰囲気だけ楽しんで」
「…十分だよ。
ありがと」

長野の言葉に、井ノ原はニッと彼の人好きする笑顔を覗かせた。

そして、その紙袋を大事そうに持った長野は、今度こそ、
「じゃあ、かえるね」
と、部屋を出ようとしたが、その腕を井ノ原が捕まえた。

「ちょっとまった! 一番大事なの、忘れてる」
「なに? 」

井ノ原は、俺を跨ぎ超えて、ソファの向こうにあるラックに無造作に投げられていた、かなりくたびれた感のある箱を取って、長野の前に引き返した。

「百人一首。
…やっぱ正月位は、コレしないと。
俺たち日本人ですから」

そういって、井ノ原が笑うと、つられたように、あとの三人も笑い出した。

「といっても、俺らは坊主めくりしかしないんだけどね」
と付け足した井ノ原に、
「井ノ原って、すごいね。
…ホント、ありがとう」
といった長野は、今度こそ、俺と井ノ原にひらひらと手を振って、部屋を出て行った。



ようやく落ち着きを取り戻した室内で、閉められた扉を見ながら、ぼうっとつったっていた井ノ原が、首だけでクルンと振り返って、俺を見た。

「あれも、無意識? 」

俺は、その困惑した面持ちのまま、俺に尋ねてくる井ノ原のその顔を見ただけで、彼が言いたいことを瞬時に悟ってしまい、微妙な空笑いを返すことしか、できなかった。

それを見て取った井ノ原は、大きく息を吐き、肩を落とすと、今年最初のボヤキを、口にした。


「ってか、一番すごいのは、長野君だって。
誰かあの人に言ってくんねぇかな? 」




そう。
長野の目には、俺たち凡人にはない、不思議な力がある。
それは、本人が自覚していることと、自覚していないことと。


自覚している力は、長野を助けもするが、壊しもする。
それがわかっているから、本人が意識的に、それを暴走させないように、セーブしている。


けれど、自覚していない力の方が、時折、長野以外の人間に対して、何よりもやっかいであることを、長野本人は知らない。


無自覚なままに披露されるその眼力で、一体何人の人間がものの見事にコワサレているのか。
あまり、知りたくはない気がした。


実際、今も目の前に、その被害をこうむった人間が、約一名。
何でも言われるがままに動いてしまった、自分の中の矛盾と、葛藤し続けている。


なので、俺は出来るだけ、その被害を受けないよう、今年一年も気を引き締めていこうと。
それを、新年の目標に掲げて、俺は、長野のせいで歯抜けにされた御節を、つつき始めた。

そして内心、どうせ来年の抱負も、それなんじゃねぇか?
と、嫌な予感に蓋をするように、魔よけの意味も込められた、赤々とした海老を、自分の口に放り込んだ。



こんなもんで、魔よけになりゃ、毎日でも食ってやるけどな。
なんて罰当たりなことを、心の中で呟いたことは、あんたの胸に収めといてくれ。

なんせ今日は、1月1日なんだからな。

 

 

++++++ END +++++

 

といわけで、1月1日小説でした。
えと、fiendish eyeというのは、悪魔のような瞳っていうか、魅惑的な瞳というか、そういうあまりよくない意味っていうか、表現なんですけど、直訳した場合がそういう意味であって、ニュアンスで捕らえると、成瀬が書いた小説の中で語られてるような瞳のことだったりします(笑)

年明け早々ですから、くすりと笑っていただけましたら、幸いです。

そして、お約束どおり、松の内中には、かんばってSP小説の続編を更新したいです☆

ってか、やりますよ~。コレくらいは護らないとね!
では、今年一年も、よろしくお願いいたします☆

<追伸>
書きそびれていましたが、コメントトラックバックともに認証後掲載方式をとっておりますので、じかに反映されませんのでご了承ください。
(書いてなかったから質問受けました、コメントかけないって。
すみません、認証後に掲載されるんで、直後に反映されなかったのです。
と、ご質問いただいた方にはお返事とともにお知らせしたのですが、ここに書き忘れてました、ゆるされて。。。)


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続いては、平家派です(Byタモリさん) [ぶいろく系]

ミュージックステーションで、タモリさんに
「続いては、平家派です」
と、紹介される日を、元平家派の6名さまと、おなじよーに夢見てる、成瀬です(イタタ・・・)

いや、でも、まぢで、今回のザ少年倶楽部プレミアム クリスマススペシャルはすごかった。
先だっての、平家派同窓会(ぷぷぷ)での、ダンス再現(ちなみに、光GENJIをやってくれたのは、MAだったかな?・・・記憶曖昧(コラ))以上にすごかった、今回の歌披露。

太一くんもいってましたが、ホント、こんだけ歌えたら、欲も出るよね。

それくらい、素晴らしかった。
太一くんつながりの三枝師匠も、ブログで坂本君の歌を褒めてたし。
そもそも、この6人の安定かんっちゅーか、バランスのよさっちゅーか、そういうのが、ある意味すごかった。

まぢで、ジャニーさんお願いだから、気まぐれでいいから、

「YOUたち、平家派でCDだいちゃいなよ」

って言ってくれませんでしょうか?
真剣に、初詣の願いに書きたい気分です。

それくらい、6人の元平家派の皆様のハーモニーは素敵でした。

彼らが、実際平家派として活動してた頃~その後のあれこれの間、成瀬は小、中学生でしたが、友人が光GENJIファンで、ジャニーズ野球大会に連れて行かれていました。
甲子園で、いぶしぎんの坂本君を見て、この人、野球うまっ。
って、ジャニファンでもなんでもなくて、ロックかぶれしていたなるせは、それでも阪神ファンだったので、野球に関しては、純粋に見てました。

それでなくても、他の人々が、阪神ファンの聖地である甲子園球場で、やる野球がこれでは、阪神ファンであり、ジャニファンではない人間から見れば、ほぼ、目を覆いたくなるようなプレーが多かったのもありますが。
それを差し引いても、坂本君は光ってました。

でもそこで、こっそり思ってました。

多分この人は、ここで光ってたら駄目なんだろうなと。

実際その感想は正しくて、野球大会しか呼ばれないのも問題っていうか、野球の技能が全然なくても、4番を打たせてもらえるような人になることが、ジャニーズ的には成功者なんだろうなと、後々わかるのですが、その頃の成瀬は、友人の付き添いでしかなかったんで、もっとちゃんとみてたらよかったと、ちょぴっと後悔ですが、まあ、それはそれで、楽しかった思い出でしょう(笑)

というわけで、平家派の彼らのときから、っていうか、メインのバックで、ずっと後ろ向いて腰振って(いや、いうほど腰は振ってないけど)踊ってるだけでも、その背中で、長野君とか坂本君とかを発見できる成瀬は、多分キチガイの域に近い長野君馬鹿なんですが、そこを差し引いても、こんな風に、ん十年たってもカッコいい彼らが素晴らしいです。

お東さまではりませんが、おっさんでもカッコいいと思います。
成瀬も、ちょっとしたなだけで、彼らとそう年変わらないんで、彼らがおっさんなら、私はおばはん(?)なんですが、それでもカッコいいと思える人間でいたいと思います。カッコいいおっさんに乾杯!

さて、クリスマスSPのOAから大分時間がたってしまいましたが、実は仕事におわれてて、昨日まで普通に仕事してたんですけど、ようやく5連休です。今年最後のネタが、平家派ネタで、すごい成瀬的に嬉しかったんですが、わけわかんない話って思われた方、すみませんでした。

多分、これは、あのOAを見た人にしかわからない、幸せな気持ちだと思うんで、見れなかった皆様、すみませんでした。
ゆーちゅを薦めたら怒られますが、なんとかして、ぜひ!見てくださったら嬉しいです。
V6っていうか、トニセンファンなら、ゼヒ!一見の価値アリですから。

幸せなひと時を、あなたも。

さてさて。
今年最後のエントリですが、今年も1年ありがとうございました。
こんな、いつ更新するんだ?って感じのサイトなのに、お越しいただける方々がいらっしゃるのは、幸せのきわみです。
来年は、映画があるので、多少はSPサイトが更新されるであろうことを祈りつつ(って、自分のことじゃん(苦笑))来年も頑張っていきたいと思いますので、みなさまも、お暇なときなど時々遊びに来てやってくださったら、幸いに存じます。

そして、年末ギリギリで大変申し訳ありませんでした。
とりあえず、現時点までの、二次創作小説部屋のPASS請求、配本システム、詳細請求に関しては、すべて対応済みとなっておりますので。

ちなみに、今成瀬は、隣で笑ってはいけないホテルマンを見たい人と、紅白を見たい成瀬とで、チャンネル権争いをしています。
っていうか、もうTOKIOは見れたから、あとは福山さんと、ゆずを見たいが為にまってるんですけど、ころころチャンネルかえられたときに出てたら、ちょぴっとショック。
まあ、HDDに入れてるからいいといえばいいんだけど、笑ってはいけないのに笑い続けてるホテルマンを見て、笑ってしまう自分にちょっと渇!(ぶほっ)

とりあえず、ジャニーズカウントダウンは絶対成瀬が見るんで、今は譲っといてやるよ見たいな態度見せてる自分にイタタですが、今年も来年も、イタイ子で頑張ってまいります☆

でもいいの、楽しいから!(そうなのか??)

ではみなさま、脈絡のないお話ですみませんでした。
良いお年を。。。。

『 つぶやいたGraduation 嬉し淋しさの真ん中~♪ 』 


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V6、非恋愛系創作小説。9.11バージョン(2/2)  [ぶいろく系]

今年もまた、9月11日が訪れました。

ここでのんびりブログを書かせていただいておりますワタクシは、成瀬美穂名義で、本家のWEBのほうで、V6の非恋愛系小説を書かせていただいております。
その、パラレル小説の中の1作品「GROUND ZERO」という小説があるのですが(当該WEBにありますTOPページの「立ち読み企画」からお越しいただけます)その作品を書くきっかけは、まさに9.11にありました。

作品自体は完結しておりますが、完全版はPASS取得頂かなければ読めないページにありますので、今回は毎年書かせていただくつもりだった、お礼の小説が間に合わないお詫びもかねて、PASS請求にすごい時間を費やしたってお話もよくききますので(まあ、私自身も人様のページでPASS請求ってしませんからね。判る気もします)ここで、番外編1本と、9.11には、ラストの章のみ、掲載したいと思っております。

PASS請求は出来なかったけど、結局あの話の最後はどうなってるんだ??と、気になってくださってる方がおられたら、ちゃんとハッピーエンド、・・・とは、言いがたいかもしれませんが、きちんとした終わり方には持っていったつもりですので、ご覧ください。

では、今日は、最終話を。。。
(ちなみに、創作小説をお読みいただくに当たっての注意書きは、本家WEBのTOPに掲載させていただいておりますので、ご了承いただいた方のみ、お読みいただけましたら、幸いに存じます)

GROUND ZERO


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V6、非恋愛系創作小説。9.11バージョン(1/2) [ぶいろく系]

もうすぐ、また今年も、9月11日が、訪れようとしております。

ここでのんびりブログを書かせていただいておりますワタクシは、成瀬美穂名義で、本家のWEBのほうで、V6の非恋愛系小説を書かせていただいております。
その、パラレル小説の中の1作品「GROUND ZERO」という小説があるのですが(当該WEBにありますTOPページの「立ち読み企画」からお越しいただけます)その作品を書くきっかけは、まさに9.11にありました。

作品自体は完結しておりますが、完全版はPASS取得頂かなければ読めないページにありますので、今回は毎年書かせていただくつもりだった、お礼の小説が間に合わないお詫びもかねて、PASS請求にすごい時間を費やしたってお話もよくききますので(まあ、私自身も人様のページでPASS請求ってしませんからね。判る気もします)ここで、番外編1本と、9.11には、ラストの章のみ、掲載したいと思っております。

PASS請求は出来なかったけど、結局あの話の最後はどうなってるんだ??と、気になってくださってる方がおられたら、ちゃんとハッピーエンド、・・・とは、言いがたいかもしれませんが、きちんとした終わり方には持っていったつもりですので、ご覧ください。

では、今日は、番外編から。。。
(ちなみに、創作小説をお読みいただくに当たっての注意書きは、本家WEBのTOPに掲載させていただいておりますので、ご了承いただいた方のみ、お読みいただけましたら、幸いに存じます)

---------------------ここからした。

 // それでも君は 世界を守るよ //

introduction
四年もの歳月をお付き合いいただきました、GROUND ZEROの完結から、すでに3年の時がたちました。
世の中は、決して良い方へ向かっているとは言いがたい時代を、今私たちは生きているのかもしれません。

しかし、この作品を通して、私は、沢山の方の優しい心を、見せて頂きました。
そういう想いを抱いてくださる人が、この世界にひとりでも居てくださる限り、この世界は、多くの哀しみを孕みながらも、また同じくらい多くの優しさを、持ち続けていられるはずと、私は信じています。

そんな皆様への、感謝の気持ちと、今年も訪れた9・11への、切なる鎮魂も込めて。
この作品を、捧げます。

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終戦の日/天使たちの探偵~Side Story~ [ぶいろく系]

毎年、この時期にはこの小説をここで掲載させていただいておりますが、成瀬は戦争を知らない子供です。

しかし、成瀬父は、終戦の年に生まれた子供です。

戦争を知らない人間に、本当の意味で戦争を知ることは出来ないと思いますが、知ろうとする努力が、同じ過ちを繰り返さないための、唯一の償いと考えるので、成瀬は毎年この時期だけでも、きちんと、このことを向き合う時間を作ろうと思っております。

っていうか、子供のときから、そうだったので、この時期必ずテレビとかで流れてるあれも、あながち無駄ではないと思うのです。

忘れないこと、考えること、そして、今、選択することの出来る立場の自分たちが、いかに幸せなことなのかを胸に、二度と戦争という名の悲劇が繰り返されないことを、切に祈ります。

再録なんで、新作でなくて、大変恐縮ですが。。。
そして、初見の皆様へは、このブログの本家「出せない手紙」サイト内掲載の小説「天使たちの探偵」シリーズから、そのままの設定で書いておりますので、どこぞの方々と、同じような名前の人が出ていても、それはあくまで、フィクションでございます(待てコラ(苦笑))

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここから下。

「天使たちの探偵」~SIDE STORY~

= 逝く夏 =

「なんだかなぁ~」

 

液晶画面の向こうで、試合を止めた審判の動きに促されるように、カメラは引きのポジションをとり、にわかに試合が止められた理由が映し出された、球場奥の電光掲示板をすっと撮してから、得点ボードの上部に設置されたアナログ時計で、カメラは止まった。
時計の針が指す時刻は、ちょうど、正午少し前だった。

 

いや、あんたのその台詞の方が、”なんだかなぁ~”って言いたいくらい、聞かされた方の気が滅入りそうな、力の抜けた言葉を発した坂本に、自分の机でノートパソコンを広げていた長野が、上目使いに彼に向かって非難がましい目を向けたのだが、いかんせん、普段より人様からのどんな視線であろうとも、それをもろともしない人物である坂本は、両膝に肘をついて顎を支えながら、ため息を一つついた。

ただし、誰がどう見ても。
大きなため息をつきたいのはこの場合、明らかに、長野の方である。

そもそも、長野探偵事務所の室内に設置された、来客用のソファセットであることを正しく理解しているのか、いないのか。
まかり間違っても、探偵を依頼するつもりのない人間4人が、そこに腰を下ろして、あまつさえ、雁首そろえてテレビの画面を眺めている光景に、怒る以前に、半ばあきれるのを通り越して、あきらめの境地で、そんな彼らを黙って見ていた長野だったが、さすがに、人の仕事のじゃまをせず、静かにテレビを見ている分には、まだ許しもするが、そんな、気の抜けた台詞を聞かされ、ついでに、ため息までも落とされたのでは、たまったもんじゃない。

大体、暇を持て余している、夏休み中の学生二人、・・・である、准一と健だけならいざ知らず、人の仕事中に、その仕事場である探偵事務所に、用もないどころか、自分たちだって、仕事中であるはずの人間二人、・・・である、坂本と井ノ原までもが集まってきて、しかも、仕事をしている人間が目の前にいることを知っていて、なおかつ、夏の全国高校野球大会を、テレビ鑑賞しているのは、それはいかに? と、聞きたくなる所行である。

いや、ただ単に、夏期休暇で暇な学生二人は、長野の事務所の雑用アルバイト(といっても、無給でいいそうだが)にやってきて、仕事中であるはずの二人は、昼休みのコンビニ弁当を、暑くて狭い車内で掻き込むのがイヤだったからという理由だけで、長野の事務所を食堂代わりに使っているのである。
で、そのついでに、仕事中の長野そっちのけで、4人で昼ご飯のコンビニ弁当をつつきながら、野球観戦まで始めてしまっただけのことなのではあるが。
普通は、しないだろう?
という突っ込みは、誰一人として、入れなかったようで、現在に至っている。

テレビの画面には、ちょうど高校球児達が、その動きを止め、スタンドを埋め尽くす両校の応援団も、手にした楽器類を椅子に置き、立ち上がろうとしているシーンが映し出されていた。

坂本の”なんだかなぁ~”は、その動きに対しての、感想だったらしい。

「やっぱり? 僕もさぁ、高校野球好きだから、毎年見てるけど、なんか違和感ありありなんだよね~、これって」

暑いときは食欲がわかないらしい健は、坂本の向えのソファーに腰を下ろし、比較的するっと入るとのたまった冷やし中華の、水色のプラスチック容器を片手に、箸で錦糸卵を捕まえながら、彼の意見に賛同するように、そういった。
が、それとは対照的に、准一は、画面の向こうの人たちと同じように、手にした箸を弁当の縁にきちんと置いてから、試合中だった選手や甲子園球場に集まる人々が今からやろうとしていることに倣おうとするつもりだったらしく、坂本と健の意見に、驚いたように、目を丸くして顔を上げた。
しかし、それに気づかず画面の向こうに目をやったままの二人に苦笑した井ノ原は、そんな准一に助け船を出すように、口を開いた。

「まあねぇ、毎年どんな試合状況だろうが、8月15日だけは、正午になったら突然コレ、っていうのも、どうなんだろう? って気は、しないでもないけど。
けど、こうでもしないと、最近は、今日が何の日か、忘れてる人多いしね。
ホントは、忘れちゃいけないことなんだから、いいんじゃないの?
多少、違和感ありありでも」

そんな井ノ原の意見に、「そうかぁ~? 」とでもいいたそうな坂本と、実際、
「でもさ、コレやってる人みんなが、ホントに心から気持ちを込めてやってるとは、僕は到底思えないけどねぇ~」
なんて、辛辣な意見を口にした健を見て、准一は、口を開いた。

「終戦の日に、黙祷を捧げることが、そないに違和感感じることなんか? 」

毎年、夏の全国高校野球大会が行われる甲子園では、終戦の8月15日の正午に、必ず試合を中断し、全員起立して、半旗の掲げられたスタンドを見つめながら、試合開始とは違った意味合いのサイレンとともに、誰もが黙祷を捧げる。
64年前に、その命を、戦争という悲劇で失った人々の魂が、僅かであろうとも、どうか安らかであれと、その思いを胸に、一分間の黙祷を、捧げる。

それは、生中継される高校野球の不文律でも、あった。

ソファーセットのテーブルの上に、コトンと手にした弁当箱を置いてから、うつむき加減で、准一は、言葉を続けた。

「僕かて、終戦の日の正午に、甲子園で黙祷を捧げることが、戦争で亡くなった人みんなの救いになるなんて思わへんし、その黙祷を捧げる人みんなが、その意味を全部理解しとうなんて、思てへんよ。
けど、意味があるとかないとか、そういう以前に、なにかやれることをやろうとする気持ちが、一番大事なんやと思う。
その球場に集まる人間全部やなくても、そのテレビを見てる人間全部やなくても、その中の何人かでも、ほんまに心からの黙祷を捧げてる人間はいてるはずやねんから、それを否定するんは、間違うてると、・・・僕は思う」

常は、さほど饒舌ではない准一の、静かな声で紡がれる、至極真っ当な意見を前に、それを聞かされた3人は、瞬時に押し黙った。
とたん、微妙な空気が流れる。

「あ、や、・・・別に否定してるってわけじゃねぇけど、・・・な」
「そうそう。いや、なんか、さっきまでふつーに試合してたのに、暗黙の了解みたいに、突然当たり前のように始まるからさ、ちょっと異様だなぁ~っていうか、そんな気がしただけで。
それが悪いっていってるわけじゃないし」
「そうだよ、岡田。
コレって、なんか恒例行事みたいになっちゃってるから、ちょっと違和感感じるけど、・・・だからって、とりあえずやっておけばいいみたいに、ないがしろにされてるわけでもないからさ、ね」

その場を取り繕うように、矢継ぎ早なフォローを必死になって入れる3人に、言った准一の方が、あわてて顔の前で、両手を振った。

「や、あの、・・・僕も、なんかきつい言い方して、ごめんなさい。
そんなつもりあれへんかってんけど、多分僕は、大阪にいてたから、毎年夏は、コレが当たり前やって、・・・当たり前や思ててんけど、けど、なんかそれ否定された気がして、つい、あんな言い方してしもて。
ホンマ、ごめんなさい」

そんな、座っていたソファーから、腰を浮かさんばかりの准一の勢いに、謝られた3人も、のんびり座っていることができず、いやいや、俺達の方こそ。
いや、そんなそんな。
と、どこまで、お互い腰が低いねんってつっこみたくなるくらいの4人の謝罪合戦は、見ていて一層、・・・・・・奇妙だった。

「もう、それくらいにしたら? 」

ソファから一人離れた椅子に腰を下ろしていた長野の声に、全員が、そちらを向いた。

「3人が言いたいことは、わかるよ。
形だけの黙祷なんて、ない方がマシって言いたいんでしょ?
テレビの中継が入ってるだけに、余計パフォーマンスっぽく感じるのも、致し方ないことだと思うし。
実際球場で、黙祷の間も、携帯片手にメール打ってる子だっていたし。
でも、そうじゃない人間の方が多いんだから、そんな穿った見方をしなくても、いいんじゃないかな?
それって、真摯に、それと向き合ってる人たちに対して、すごく失礼だよ」

長野の簡潔な言葉に、3人はぎこちなくうなずくしかなかった。
それを見てから、長野は准一に視線を向けた。

「准一の言いたいことも、わかるよ。
っていうか、そういってくれる人間が一人でもいる限り、この瞬間が無駄じゃないって俺も思うし、・・・できれば、一人でも多くの人間が、そう思っていて欲しいって、心底思う。
ただ、祈りを捧げる行為は、誰かに強制されてやるもんじゃないし、まして、必ず、この日のこの時間にしなければいけない、ってものでもない。
だから、その行為の是否を問うのは、違うんじゃないかな?
黙祷を捧げたいと思う人は、そうすればいいし、そうじゃない人は、しなければいいだけのことでしょ?
人に押しつけたり、押しつけられたりしてやることじゃないよ。
・・・亡くなった人を思いやれる気持ちを持った人間が、生きてる人間を思いやれないなんてことは、ないはずだからね」

小首を傾げるようにして言った長野の顔をじっと見ていた准一は、もう一度だけ、「ごめんなさい」と、謝罪の言葉を口にした。
言われた長野は、首を左右に振って、「俺に謝る必要はないよ」とだけ、答えた。

そして、座っていた椅子から立ち上がると、ふわっと笑って、4人に言った。

「今のは、お互いの言葉に、ちょっと配慮が足りなかっただけ。
どっちも正しかったけど、どっちも少しだけ、間違ってた。
その結果として、どっちもが傷ついた。
・・・戦争も、そうなのかもね。
ただ、今みたいに、すぐにそれに気づけたら、あんなに多くの犠牲を出さずにすんだんだろうけど。
それがとても、残念だね」

どちらも正しくて、どちらも少しだけ間違えただけでも、結局はどちらもが傷つく。
たしかに、戦争というモノも、その延長線上にあったのかもしれない。

誰もが、負けるとわかっていて、戦争を始めたわけではない。
自国を焼き尽くすために、多くの人間の命を失わせるために、戦争をしようとしたわけではない。
ただ、強くなりたい。
列国に脅かされない、そんな強い国になりたい。
そう思ったことが、それほど罪なことだったのか?
と、問われれば、そのすべてを否定することは、難しいことなのかもしれない。

それでも、失われたものは、大きすぎたけれども。

椅子からたった長野は、ゆっくりと歩を進めて、自分の事務机の前に回ってきた。
そして、ソファーセットでテレビを取り囲むように座っていた4人を見回してから、すっと右手の人差し指で画面を指していった。

「ほら、はじまるよ。
やる、やらないは、自分で決めれば、いいけどね」

その声に、ぐるんと顔の向きを変えて、長野が指さしたテレビの画面を見つめると、ちょうど12時を指した時計が映し出され、次の瞬間、「ウゥーン」というサイレンが、この一時だけ、音のやんだ甲子園球場に、こだました。

一分間の黙祷。

そこにどんな意味があるのか。
意味なんて、ないのかもしれない。
けど、意味はあると、信じていたい。

そう思う人間が、今、心からの黙祷を捧げる。
失われた命の平穏と、これから先の平和を祈る。

目配せ一つなかったのに。
それでも、まるで図ったかのように、怖いくらい同じタイミングで、音もなくソファから立ち上がった4人の姿に、ふっと表情をゆるめた長野は、ゆっくりとその瞳を閉じて、黙祷を捧げた。
そして、立ち上がった4人も、それぞれの思いを胸に、同じように、目を閉じて、頭を垂れた。

 

そこだけ、時間が切り取られたような静寂が、一瞬にして戻ったことを伝える、テレビからの音声に、その場で黙祷を捧げていた5人が、目を開いて顔を上げた。

お互いに顔を見合わせた4人は、誰からともなく、照れたように笑いあって、ソファに座り直し、中断されていた昼食に戻ろうとした。

が、同じように座っていた椅子に戻りかけた長野だけが、肩越しに4人を振り返り、言った。

「でも、ま、俺も、なんだかなぁ~って感じだし、違和感ありありって感じが、ものすごいするんだけどね」 

その長野の言葉に、4人の「えっ? 」って、驚愕の声が、重なった。

だってそれは、先ほど長野が語ったことをすべて、根底から覆す言葉に、他ならなかったから。
だから、誰もが、驚きのあまり、再び手にした箸を、取り落としそうになったのである。

けれども、そんな4人の様子に目もくれない長野は、すとんと自分の椅子に座り直すと、呆れたように4人を眺めていった。

「だって、人の仕事中に、人の仕事場で、暢気にお昼ご飯食べてるってのは、なんだかなぁ~って感じだし。
男4人が顔つきあせて、携帯ワンセグの小さい画面で、高校野球を観戦してるってのも、違和感ありありだよね、どうみても」

それだけ言った長野は、一つ、これ見よがしに大きく息を吐き出すと、開いていたノートパソコンに視線を落とし、仕事を再開してしまった。

言われた四人はというと、黙祷とは別の意味で、もう一度頭を垂れることしばし。

次の瞬間には、のどを詰まらせながら、大急ぎで残りのご飯を各々の胃に収め、注目のカードだった試合の続きを見るのも忘れて、いそいそと携帯の画面を閉じたことは、言うまでもなかった。

長野探偵事務所の窓の外には、逝く夏の日差しが照りつけ、閉じられた画面の向こうでは、今し方、黙祷を捧げた高校球児達が、スポーツマンシップに則った戦いを、再開していた。

 

=了=

 

<あとがき? >

ギャグなんだか、マジなんだか、よくわからない作品になってしまいましたが(ヲイ)自分で言うなってつっこんどきます。
ちなみに、成瀬は神戸っ子なんで、甲子園の黙祷は、年中行事です(はい?)

いえ、本当に、成瀬も意味があるかないかじゃなく、こういう時間を持つことが大事なんだと、思っています。
普段考えないことを、きちんと考える時間を持つことが、今の自分にできることだと、思っていますので。

平和への祈りが、絶えることのないように。

<追伸>
早朝から、文章の一部から途切れてしまっている不具合が出ておりまして、申し訳ありませんでした。
メールで速攻教えてくれたSちゃん、ありがとうございました。
なのに、対応が夕方でごめん。。。


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あけましておめでとうございます、…V6小説?(笑)『fiendish eye』 [ぶいろく系]

あけましておめでとうございます。

っていうか、これを書いてる時点では、まだ年は明けてないのですが、予約でエントリできるんで、ソネットさん側に問題が起きなければ、年明け早々にこれがエントリされてるはずなんで、あけましておめでとうございます、・・・でございます。

さて、昨年も相変わらず、成瀬にとっての”しばらく”は、”1年”もかい!って突っ込まれそうなほどの遅筆を披露しまして、申し訳ありませんでした。
しかも、途中、ルーキーズやブラッディマンデイの二次創作小説にまで手を出して、そんな暇があるなら、他に更新すべきもんはあんだろ?って突っ込まれそうなのは、重々承知しておりますので、お許しください。

今年も、こんな感じで行くと思いますが(ヲイ、反省はないのか?)成瀬はそういう人間と思って(ええ、最初からこのページにお越しいただいてる皆様なら、すでに10年越しのお付き合いですから、ご存知だと思いますが、あははは。。。)あきらめの境地、・・・いや、失礼しました。
広い心をお持ちの皆様だけ、どうぞ暇なときだけでも、ちょこっとのぞいてやってくださったら、もしかしたら、更新されているかもしれません(待てコラ)

そんなこんなな新年のご挨拶だけでは申し訳ないので、下記に、V6小説のあけおめバージョンを載せておりますが、例によって例のごとく、注意書きが2点ございます。

まず一つ目。
V6パロディ小説は、このブログの本家であります「出せない手紙」サイトの冒頭にも記載されておりますとおり、実在の人物、団体等と一切関係はございません。
あくまで、一ファンであります成瀬の空想の産物でございますので、その点をまずご了承いただきたいことと、今回の作品は上記の「出せない手紙」サイトに載せてあります「天使たちの探偵」シリーズの番外編として書いておりますので、人物設定に関しましては、そちらをご参照ください(←不親切)

そして二つ目。
下記作品は、ブログがこれほど普及する何年か前、成瀬がサイト内のPASSをお持ちの方だけがごらんいただけるページ内の日記で、新年のごあいさつ代わりに掲載させていただきました作品になります。
したがって、ありがたいことに、長年こちらにお越しいただいてる方には、すでにごらん頂いてる方も、多数おられると思われますので、その皆様には大変申し訳なく思っておりますが、時間のなかった成瀬をお許しください。

では、上記をご了承いただける方のみ、下記からどうぞ。。。

スタート

--------------------------

『 天使たちの探偵  』Side story

// fiendish eye //

 

「あああ…、俺も世間様並の、お正月がしてぇ!! 」


時は、2009年1月1日の、午後7時。


ちゃっかり、…というか、しっかりというか。


神奈川県警ご用達、…とまでは言わないまでも。
ここの職員の半数以上が、間違いなく一度はお世話になったことのある、お弁当屋の親父さんが、今朝方、売り物でもない大荷物を抱えて、
『元旦から仕事なさっている皆さんへのお年賀代わりに』
と、冗談を交えながら持ってきた御節料理の数々を、無駄な言葉ばかりが回転し続ける口に、その回転速度と勝るとも劣らないスピードでさっさと箸を動かして、それらを片っ端から頬張り続ける井ノ原の後頭部を、
「煩い」
との言葉も添えて、パカンと一つ叩いた。

まあ、ちょうど今日の昼時に、朝それが届いてから、
「早く食べよう! 」
と、うきうきしていた井ノ原の想いが、緊急出動要請が入ったことで、無常にも打ち砕かれてしまったことをしっていたから、この夕食時に、今度こそ…との想いを抱いていたことは、知っている。

しかし、だ。
物事は、時と場所を選ぶべき、…だろう。

こいつの頭の中に、TPOなんて言葉がインプットされているかどうかは、些か疑問ではあるが。



「痛いよ、坂本君…」

と、左手で殴られた箇所をさすりさすりしながら、それでも右手の箸は手放さず、かけたソファから首だけでこちらを向いた井ノ原に、
「てめぇだけちんたら食ってないで、茶でもいれてこい」
と、そこから追い払った。

こちとら、新年早々起きた事件、…といっても、一体何を考えているのか。
初詣の人でごった返す神社のど真ん中で、一組の男女が、散々罵倒しあって、挙句に凶器の包丁まで振り回す…という、どうせ些細なことでキレタ男女の、はた迷惑な痴話げんかだと思われる傷害事件の現場に。
たまたま居合わせた長野と健と准一を、順番に調書を取り終えさせて、刑事部屋に連れ戻ったばかりなのだからと、その三人を、井ノ原の退いたソファに座らせた。

なぜ、ただ初詣に来て、その現場に居合わせただけ…のはずの彼らを、事情聴取しなければならなかったのかというと。
正月特別警戒で、どこも人手不足の所轄から、応援要請を受けた俺と井ノ原が駆けつけたときには、すでに、初詣客の衆人環視の元、とても女性の口からでているとは思えない罵詈雑言を叫び続ける20代後半の女性を、健と准一が押さえつけていて、彼女が振り回していた、…との証言を受けた凶器の包丁を片手に、反対の手で項垂れる男を形だけ、…とばかりに取り押さえる長野が、そこに居たから、…なのだが。

結局、駆けつけた俺たちが何をするでもなく、現行犯逮捕となった女性も、彼女に凶器を持ち出させるほど、平手打ちで先に手を出していた男性も、県警に連れてこられたとたん、急に大人しくなって、
なんでもないとか、
お騒がせしましたとか、ナ
ニがしたかったわけ? とこちらが聞きたくなるくらい、わけわかんないこと言い出す始末。

まあ、被害者が出たと言うわけでもなく、身元照会をしたら元夫婦だという二人に、これ以上せっついても、元夫婦による、犬も食わない夫婦喧嘩が大げさになってしまったもの、…程度の認識である以上、起訴する必要もないと見て、今年銀婚式を迎える刑事課のベテランデカさんに、夫婦たるもの、…まあ、彼らの場合”元”がつくが、…を語ってもらい、こってりお灸を据えてもらってから、そのまま返すしかないか…ってことに収まったのだが。

応援要請が入ったときは、大勢の人でにぎわう初詣の会場で、包丁を持った人間が暴れている、…だっただけに、すわ、正月ムードをぶち壊したい、凶暴な通り魔的犯行か? と、制限速度一杯一杯でパトカーを走らせたのがバカらしくなる位の
そんな事件でも、報告書を上げないことには、どうにも収まりのつかないお役所体質に嫌気をさしながら、長野たちの調書を取らざるを得なかったのだ。




「しかしまあ、正月早々、長野君たちも災難だったねぇ? 」

ソファに座る3人に、お茶を出しながらそういった井ノ原に、
「それはもう、いわんといて」
と、ため息混じりに返した准一と、
「ごめんね、僕が初詣に行きたいなんて言ったばかりに、こんなことになっちゃって」
と、ソファの上で、もともと華奢な身体を、尚一層小さくした健が、答えた。


そもそも、相変わらず仕事に精を出している健の父親が、年末から年始にかけて、仕事で海外を飛びまわっているとの情報を聞きつけた准一が、それならばと、冬休みに入るなり、健の家でぷち合宿(というのは、俺が名づけたのではなく、
長野が…だ)に入った為、31日まで仕事をしていた長野と、今朝合流して、初詣に行った…まではよかった。

いや、行ったのが、いけなかったのか?

とにかく。
事件が起きたのはお昼前ではあったが、込み合う道路事情も考えると、初詣には朝から出かけていたはず…なのだが、いかんせん、今は既に夜の7時を回っているのである。

愚鈍な警察、…とありていにいわれても仕方がないような、時間のかかりように、俺は、
「わるかったな」
と、事件を未然に防いでくれたはずの、感謝されてしかるべきな善良な市民…と、呼びがたい人間も、約一名含んでいるが…を、元日に、こんな時間まで拘束していたのでは、警察組織を代表して、謝るしかないだろう、…といったところだ。

ちなみに、長野を筆頭に、昼も夜も…間違いなく、くいっぱぐれているはずの面々だが、健と准一は、お腹がすきすぎてか、もしくは疲れすぎてか、すでにグロッキー状態。
目の前に並んでいる御節に、箸を伸ばすそぶりも見せなかった。

代わりに、准一が、
「坂本君のせいやないよ」
とだけ、答えてくれたが。
健にしろ准一にしろ、もう…とりあえず早く帰って、お風呂にでも入って、あったかい布団で眠りたい…といった表情を、顔面に貼り付けていた。

それが長野もわかっているのか、事件現場で出会ってから、今現在に至るまで、必要なこと以外一切口を利かなかったくせに、ソファに埋もれている二人に、
「二人とも。タクシー拾って、早く帰って休んだらいいよ」
と、覗き込むようにして、声をかけた。

いや、長野が、自分の望むと望まざるに関わらず、事件に関わってしまったとき。
それが、長野自身が受けた調査中の案件、…でなければ、絶対に、無駄口は一切叩かないのは、いつものことだった。
仮に、自分の調査対象を追っていて、何かの事件に関わったのであれば、事件の一刻も早い解決を目指して、自分の能力を、惜しげもなく俺たちに貸してくれるのである。

その理由を知っていた俺は、今日長野に逢ってから、その態度に、始終困惑気味な表情を見せていた井ノ原を適当にあしらい続けていた。

考えてみれば、長野が調査対象と全く関係のないところで、今回のように事件に巻き込まれたところに俺たちが居合わせたのは、井ノ原にとってみれば、これが初めてのことだったのか…と、今更ながら、そんなことが一瞬だけ、頭をよぎったが、今は目の前の疲労困憊な少年たちをなんとかする方が先だろうと、その思考は、ひとまず脇に追いやった。

言われた健は大人しく、
「うん、そーする」
と、覇気のない口調で答えたが、ふと顔を上げた准一は、
「長野君はどないすんの? 」
と、尋ね返した。

なかなかに鋭い准一のその言葉に、となりの健はきょとんとした顔をしていたが、言われた長野は、苦笑いを浮かべると、
「ちょっと用事があるから、先帰って休んでて」
と、答えた。

「用事…って。長野君ずっと働きづめやん。僕ら冬休みやゆうて、遊びまわってたけど、長野君はその間もずっと仕事してたやろ? せやのに、その間にクリスマスやゆうて、ディズニーランド連れて行ってくれたり、今朝かて、朝方まで仕事してたんやろ? 
で、寝てて良かったのに、僕ら初詣連れて行くために、車だしてくれたんやん」
「それで事件に巻き込まれてたら、世話ないわな」
「坂本君っ!! 」

本当に申し訳なさそうに。
探偵事務所なんぞにお世話になっているからか、はたまた生来のものなのか、妙に鋭い感性の持ち主の准一は、実は黙っていたけれど、長野の無理、…っていうか、無茶を知っていましたよ、といわんばかりに指摘したので、俺が笑いを取ってやろうかと思っていってやったのに。
その当人から、でっかいお目目に不似合いな怒りのオーラをともして、見上げられてしまった。

が、それをフォローしてくれたのは、珍しく。
そう、本当に珍しく、長野だった。

ただし、そんなフォローのされ方だったら、されない方が良かった…と思える、言いようだったのだが。

「ホント、坂本君の言う通りだよ。今日のことは、俺の責任。
もっと早く、ただ殴り合いみたいになってるだけのあの場で、もっと上手く収める方法もあったのに。
でも、二人を巻き込みたくなくて、彼女が凶器を取り出すまで、つい動くのが遅れてしまった。
そのせいでこんな大事になっちゃって、…ごめんね。
だから、俺のことは気にしないで。
とにかく、今日は早く帰って、ちゃんと休んで、ね? 」
「でも、長野君は? 」
「ん? 明日には帰るから」
「朝帰りかよ」
「……この場合、坂本君は黙ってたほうが…」

俺が茶々を入れると、それを眺めていただけの井ノ原は、横から恐る恐るそう口にしたが、俺はそれに無視を決め込んで、話に参加した。

「そんな睡眠不足間違いナシの人間に、車運転させた日には、三人そろってあの世行きだろうからな。
大人しく、お前らはタクシーで帰った方が、身のためだぜ」

といってやると、俺の意図を察したのか、准一は不承不承といった感じで、健を伴って立ち上がった。

「ほな、僕らは帰るけど…」

そう言った准一が、あまりに心もとない顔をしていたからか、井ノ原が、
「パトカーで送って行こうか? 」
と、提案したが、言われた准一は、
「井ノ原君も、まだ仕事中やろ? ええよ、そんなん。
そこの大通りでタクシー拾うし、この時間やったら、すぐにつかまるやろ」
と答えて、刑事部屋の出口へ向かった。

いまいち状況の呑み込めていない健は、首をかしげながらも、そんな准一に大人しく腕をひかれていったが、扉の向こうに出て行く瞬間、ちらっとこちらを振り返った准一は、不安そうに長野にいった。

「明日、…何時になってもええけど、帰ってきてな。
明日は健君と、長野君のマンションで、待っとおから」

まるで、不実な恋人を待つ、薄倖の女性が呟きそうな台詞に、長野は困ったような笑顔を見せて、
「わかったよ」
と、答えた。

「でも、帰りは車のったらあかんよ。どうせ今日も大して寝られへんのやろ? 
それで運転するなんて、言語道断や。
ほんまに事故ったら、坂本くんのええ笑いもんになるだけやで? 」

准一の、若干失礼な物言いは、今日は元日だし…と、聞き逃してやることにして、
「そうだそうだ」
と、彼の援護射撃をしてやった。

すると、言われた長野は、軽く笑い飛ばしてから、答えた。

「大丈夫、そんな命がけで笑いを取るつもりはないよ。
オレ、関西人じゃないから」
「それって、ものすごい関西人に対する、偏見やで? 」

長野の軽い受け答えに、ようやくほっとした表情を見せた准一は、
「ほな」
と、小さく頭を下げて、刑事部屋を後にした。




彼らの後姿を見送っていた長野は、ようやく視線を俺に向けて、井ノ原に出された茶をすすりながら、言った。

「彼女、…どうなるの? 」
「ああ。状況が状況だしな。…現行犯だから、一日泊まっていってもらうことにはなるだろうけど、48時間後に起訴するだけの事件でもねぇから、明日には帰れるんじゃねぇ? 」
「そう。…なら、よかった」

この後用事がある、…といった長野が、何をしようと、いや、何がしたいと思っていたのか、大方の予想がついていた俺は、よかったといって、あからさまにホッとした表情を見せた長野を見て、その自分が思っていた予想が、当たっていたことに、安堵していた。

長野は、知っている。
彼女たちが、なぜ、あんなところで痴話げんかを始めたのか。
それがエスカレートして、あんなことになってしまったのか。
そして、その結果警察に連れてこられた時点で、いきなり大人しくなって、一刻も早く帰れるようにと、こちらのいうことに、ハイハイと頷いたのか。

そして、実のところ、養育費の不払いで揉めていた、元夫婦である彼女たちの間に、まだ小さな子供が二人居ることを。
長野は、知っている。

ただ、それを長野が語ることはなかった。

俺は、彼女たちの身元照会や、一応聞き込みに行かせた刑事たちから得た情報で、大方の状況をつかんだに過ぎないが、あの場に居合わせた長野は、彼女たちの話の節々で、その様子で、それと同じだけ、…もしくはそれ以上の情報を、長野が知っているであろうことに、俺は気づいていた。

けれど、長野は決して、自分が目にした事実以外、誰にも語ろうとはしなかったが。

その用事とやらを、大手を振って、長野にやらせてやるために、俺は口を開いた。

「なあ」
「…なに? 」
「仕事、頼みてぇんだけど」

俺がそういうと、先ほどまで満員状態だったソファではなく、その横に椅子を引き寄せて座っていた井ノ原が、不思議そうな顔をして、俺を見ていた。

「いいよ」

長野の即答に、今度はそちらへぐるんと首を回した井ノ原は、ぱかぱかと音の出ない口を動かしていたが、俺は長野に依頼内容を手短に話した。

「あの元夫婦の間には、子供が二人いてさ。
彼女が引き取って育ててるんだけど、今日はアパートで留守番してたんだけどさ、
もう、こんな時間だしな。
一応、生活安全課で預かってる。
でもな、今の時期どこも手一杯でさ、ゆっくり見ててやれねぇの。
だから、彼女の了承もとってるし、その子供ら家に連れて帰って、彼女の代わりに、今夜一晩だけ面倒みてやってくんねぇかな? 」

親が警察に捕まって、平気でいる子供なんていやしない。
まして、今日は1月1日だ。
こんな日から、幼い子供二人を…例え、その子たちのためだったといえども、…放っておかなければならない立場に陥ったのは、彼女自身の責任ではあるが、その子供に、罪はない。

俺がそう言うと、長野は思案したような顔をして、
「……ずいぶんと甘やかされてるよね、俺」
と、井ノ原にとっては、明らかに意味不明な一言を吐いてから、
「わかった」
と言って、ソファから立ち上がった。

「手続きは、生活安全課のやつらに、話通してるから。
おまえの名前だけ言や、すぐに手配してくれる」

俺の言い添えた言葉に、
「うん」
とだけ返した長野は、
”なんのことだかわかりません!”
って気持ちを、顔に大書きしている井ノ原に、曖昧に微笑んでから、
「じゃあ」
といって、部屋を出て行った。 



長野が出て行ったそこを、穴が開くほど見つめた井ノ原は、椅子をガラガラ鳴らして俺に近づき、なぜか小声で、
「どういうこと? 」
と、聞いてきた。

俺は、苦笑交じりに、もともと彼が座っていた場所へ座りなおすよう言ってから、
「続き、食えよ」
と、せっかくの好意で届けられたそれを無にするのは信条に反するので、この状況で先ほどと同じようなくいっぷりを井ノ原が披露できるとも思えなかったが、目の前に広げられた御節を指差して、自分は胸ポケットに入れていたタバコを取り出した。

「あいつ、探偵だろ? 」
「いや、それは俺にもわかってるって、坂本君」
「で、その探偵としての長野を動かすには、”依頼”っていう、大義名分がいるんだ」
「大義名分? 」
「そう。”依頼”っていう名の大義名分がなきゃ、あいつは動けないんだよ」
「は? …ってか、長野君は依頼なんかなくっても、なんでもしてくれるっしょ? 
そもそも子供のお守りが、探偵に依頼してまでする仕事とは思えないけど? 」

井ノ原の疑問も最もだ。

なぜなら、長野は誰にでも優しい。
本当に、なんでそこまで…と、みているこちらが、心底嫌になるくらい。
たとえ、そこに見返りがなくても、自分の力を、惜しまずに注いでやれる、そういう優しさを持っている。

それは、違うことなき事実だ。

でも、俺が話すことも、また、事実だった。

「あいつは、なんでお守りが必要なのかも、彼女がなんであんなことしたのかも。何が気がかりで、ここに連れてこられたとたん、急に大人しくなったのかも、全部知ってる。
…それは、探偵としての長野が、あの短時間で気づいたことで、…そこに、裏づけはなにもない。
俺が、捜査課の連中に、聞き込みに行かせて手に入れた情報と長野が気づいたことが、結果として同じだったとしても、長野が知りえたことは、事実じゃない、推論だ。
だから、あいつはそれを、俺らに一切口にしなかった。
しない為に、必要最低限のことしか、語ろうとしなかった」
「でも、いつもは、”俺の推論だけど”って、俺らに協力してくれるじゃん。
なんで、今日に限って」
「そう、なんで今日に限って、だんまりを決め込んでたのか。
理由は一つだ。
…そこに、依頼がなかったから」
「へ? 」

とぼとぼと動かされていた箸は、ものの見事に動きを止め、そこに挟まれていた数の子が、ぽとんとテーブルの上に落ちたのも気づかず、井ノ原は俺を見ていた。

「誰かからの依頼がない限り、長野は動かない。
…いや、動けない」
「や、でも…」
「今日だって。
…さっき、長野もいってただろ? 
あいつは、彼女が凶器を取り出す前に、こうなるだろうことは、予想できていた。
けど、動かなかった。
…あの二人を巻き込みたくなかったってのも、事実だろう。
でも、それ以上に、動かなかったんじゃなくて、ホントは動けなかったんだ」
「なんで、そんな」

俺は、テーブルの上に落とされたままになっている数の子を、手近にあったティッシュで拾い、横のゴミ箱へ投げ入れた。
親父さんには申し訳なかったが、最後にいつ拭いたのかわからないような、哀しくなるくらい粗雑に扱われている捜査課のテーブルにじかに落ちた食べ物を食べる勇気は、俺にはなかった。

そして、そんな俺を黙って見ていただけの井ノ原に、俺は話しの続きをした。

「長野は、怖いんだよ」

俺がそう言うと、井ノ原は彼の細い目を、コレでもかと言わんばかりに、驚きのあまり押し広げた。

「依頼がないと、怖えぇんだ」
「……何が? 」
「自分の力が」
「え? 」
「あいつはある意味、俺たちにはない力を持ってる。
あいつの目は、俺たちのそれと、明らかに違う。
…俺たち凡人には、到底見通すことの出来ない、そういう見えないものを見る力がある。
もちろん、超能力っていう意味じゃなくてな」

俺が苦笑いを浮かべてそう言うと、井ノ原も
「うん」
と、力なく返事をした。

「で、もしそれをフルに使ったら、どうなると思う? 」

俺の問いかけに、一瞬だけ宙に目をやって、考えるしぐさをした井ノ原は、何かがすとんと落ちてきたような顔をして、俺に答えた。

「えーっと、頭使いすぎて、ショートする? 」

俺は、井ノ原の表現に、声に出して「ははは」と笑った。
笑われた井ノ原は、当然のことながら、あまりいい顔はしなかったが、ふてくされた様子で、止まっていた箸を動かし、黒豆を起用につまんで、口に放り込んだ。

「あんだけ驚異的なスピードで頭使ってたら、それもアリだろうけどな。
でも、許容量超えてショートしてくれるんなら、まだいい。
そうなったら、自分の中でこれ以上はだめだって、ブレーキがかかって、自分の中のブレーカーを落とすだろ? 
したら、暴走は止まる。
それ以上のショートは起こらない。
けどな、あいつの中に、ブレーキはない。
一度走り出したら、真実を突き止めるまで、走り続ける。
例え、何が起きようとも」
「それは…」

いい指した井ノ原は、ふと黙った。
長野をして、そんなことはないと、そういいきれない自分に気づいたから。

「あいつの中のブレーキは、他人はおろか、あいつ自身だって、そう簡単に踏むことは出来ない。
そうやって、それを踏める人間が居ない以上、走り出す為には、”依頼”っていう、免罪符がいるんだ。
それがなくて、なんでもかんでも真実をあばいていったら、それは、ただの自己満足だ。
イヤ、暴かれる側から言ったら、なんでも見通されている、悪魔みたいなもんだな」
「それは違うでしょ? 」
「いや、本人はそう思ってるよ。
…だから、依頼があれば、その真実を突き止めたときに、ようやく止まることができることもわかってる。
”依頼”があるから、それを終えたときに、あいつのブレーキを踏ませることができるんだ」

そこで言葉を切った俺に、井ノ原は眉根を寄せて、箸を持った右手をそっと口元に当てていた。

「だから長野は、依頼がなきゃ動かない。
そうしなきゃ、自分の目に映るもの全て、暴いちまうからな。
その裏に潜む、隠しておきたいような、真実でさえも」
「でもそれは…」

そう、それは正しいことだ…と、井ノ原は言いたいのだろう。
確かに、それが真実であるならば、長野のしようとしていることは、正しいことのはずだ。

ただ、正しければなにをしてもいいのか、…といわれれば、その答えは、きっとNOだ。

過ぎた正しさは、時に、人を傷つける。

それを長野は知っているから、自分に”依頼”という枷をつけたのだろう。

それがなけれな、動かない、…と。


けれど、そのことをいまいち納得できていない井ノ原は、不満そうな顔で、俺を見ていたので、俺は話を続けた。

「たとえばコレ」

俺はそういって、自分が取り出したタバコに火をつけるため、左手に持ったライターを、井ノ原の眼前にかざした。

「俺が今使っているライター。
俺はこれを、その辺の100円ショップで買ってきたわけじゃない。
いつも行っている、角のタバコ屋のおばちゃんに、”ないしょだよ”といわれて、カートン買いする客用に用意してるそれを、ただで貰ったんだ。
不精ですぐどっかやっちまう俺は、いつもたったヒト箱づつしか買わないのにな。
……もちろん、そこに他意はない。
懐具合がよろしくない刑事の職を知っての、ただの親切心だ。
大体、あそこの爺さんも、元警官だ。
賄賂を生活安全課の連中に、どうやって渡そうか、日夜手を変え品を変えやってる風俗店の店長じゃねぇんだから、俺にコレ渡して、なんかの利益にしようなんて、おばちゃんは爪の先ほども思っちゃいねぇよ」
「そりゃまあ、そうでしょ? 」
「けどな。
もしも、あのタバコ屋のおばちゃんと、見ず知らずの人間が、同時に助けてくれって叫んだとしたら、俺はきっと無意識にでも、タバコ屋のおばちゃんの方を先に、助けに走っちまう。
…そのときに、このライターのことなんて、頭の隅にもないだろうけどな。
でも、人間ってのは、そういうもんだろ? 」
「まあねぇ」

井ノ原はのんびりとそう答え、俺が吐き出した紫煙の先を眺めてから、箸につまんだ伊達巻を、半分に切っていた。

「で、お前が今食ってる御節だってそうだ」

俺がそう言うと、つっと顔を上げた井ノ原は、不思議そうに俺を見た。

「それの出所を、知らねぇわけじゃ、ねぇんだろ? 」
「あ…」

朝、弁当屋の親父さんがこれをみなさんで、って持ってきたときに、先頭切ってありがたがっていたのは、当の井ノ原だ。
だから、俺の指摘に、井ノ原は罰の悪そうな顔をして見せた。

「当然のことながら、あの弁当屋の親父さんも、ウチに付け届け…と思って、これを持ってきたわけじゃない。
こんな日に狩り出されてるのは、どうせ家族の居ない独りもんで、家に帰ったところで正月らしいものにありつけるわけがない。
だからこそ、休みは家族もちに譲って、仕事に出てきてるってなもんだ。
そんな、元日なのに、正月らしいことなんもできてない俺らに、少しでも正月らしいことをと思って、善意で持ってきてくれたんだってことは、百も承知だ」

俺の言葉に、井ノ原は大きく頷いて見せた。

「けどな、俺らだって、そうやって親父さんになにかと世話になってるって気持ちがあるから、ウチは…っていうか、ウチの交通課は、あの親父さんが昼時に、ここの前の道路にワゴンで弁当売りに来ても、取り締まらねぇだろ? 
……そういうことなんだ」
「…………」
「だからって、そういうの全部だめ…っつったら、生きらんねぇだろ? 」
「そだね」
「でもな、長野だったら、そうしない」
「え? 」
「もし、…そうだな、お前が他の誰かと同時に、長野に助けてくれって叫んだとしたら、あいつは必ず、お前じゃなくて、みもしらねぇ人間の方を、先に助けに行く。
何でだと思う? 」

俺がまたそうやって井ノ原に質問を投げかけると、今度は箸先を咥えたまま、うーんと考える顔つきをして、答えた。

「そりゃ、俺は警察官だし…」
「そうじゃねぇよ。
…長野の本心は、お前を助けたいんだ。
でも、あいつはそうしない。
お前を助けることで、助けられなかった方の人間が出たとする。
したら、あいつはその責任を取ることができないからだ。
名前も知らないような赤の他人に、責任の取り様もない。
けど、お前だったら、まだ償う方法があるかもしれない、…そう思うから、あいつはお前を後回しにする。
本当は誰よりも助けたいって思っているのに、身内は後回しだとばかりに、己の心を切り捨ててな。
……そんな責任、背負い込む義務なんてねぇのに、あいつはそうするんだ」

井ノ原は手にしていた箸を置いて、顔を上げた。

「確かにやりそうだね、…長野君なら」
「だろ? 
それにな、もしも俺がなんらかの罪を犯したとしたら、長野は平気な顔をして、それを暴くんだ」
「へ? 」
「たかだか、御節一つで、道交法の違反を見逃してやってる神奈川県警と違ってな。
長野は、10年来の親友ですら、躊躇なく真実を暴くんだ。
もし仮に俺がなんらかの罪を犯したとしよう。
したらお前らはきっと、そこになんか理由があるんだとか、それがなんもなかったとしても、どうにかしてそれを取り繕うとする。
隠すか、もしくは少しでも不利な状況だけでも取り除こうと、躍起になる。
…だろ? 」

俺が上目遣いにそう聞くと、自信なさげな顔をした井ノ原は、顔を俯けてぽそぽそと話した。

「……どうかな? 
でも、目を瞑る、…かもしれない」
「多分、皆そうするんだ、普通はな。
……けどな、長野は俺の犯した罪を暴く、俺が辞めてくれって止めたとしても、絶対にやめない。
その先に何が待っていようとも、その全部を背負う覚悟で、真実をひきづりだしてくる。
…まるで、それがなんでもないことのように、嫌になるくらい冷静にな。
で、後から、ひとかけらの後悔をすることもない」
「いくらなんでも、それはないっしょ? 」
「いや、ある。
…後悔ってのは、そこに改善の余地があったから、あとになって悔やむんだ。
ああしてればとか、こうしてればとかってな。
他の選択肢があったのに、それを選ばなかったことを、後悔する。
イヤ、他に選択肢があったからこそ、後悔できるんだ。
けど、長野の場合、それはない。
どうやったって、真実はたった一つで、それは、必ずそこにあるものだから。
それを曲げることを、あいつは絶対に、自分に許さない」
「でもそれって…」

”ツライじゃん…。”
井ノ原の言いたかった、その言葉の先を、俺は目を閉じて、言わせなかった。
代わりに、俺が口を開いた。

「許さないからこそ、長野が、長野たる所以なんだ」
「…そっか」
「だから、長野を動かすには、”依頼”って免罪符を与えてやらなきゃいけないんだ。
それがあれば、あいつは自分の力を振るうことの罪悪感から、少しでも解き放たれる。
逆に言うと、それがなきゃ、あいつはいつか、その力に呑み込まれる」
「うん」
「まあ、言った所で、長野の中でそれは、全部無意識なんだろうけどな。
…案外、こんなに気をもんでんのは、俺の勝手かも知れねぇし、長野は俺が思ってる以上に、もっと靭いのかもしれない。
ただ、俺は自分の不安を打ち消したいだけなのかも知れねぇって思ってたんだけど…」
「けど? 」
「けど、今日の准一みてたら、俺の杞憂でもなさそうだな…って、思った」

今、長野の一番近くに居るのは、准一で、その准一は、長野自身が、自分と似ているといったのだ。

だから、その准一の反応を思い出したように、遠い目をしていた井ノ原は、
「あー」
と、なんだかわけのわからない声を発して、納得していた。



今日は一体どうしたことか。

ひょんな切欠から、正月早々こんな、あまり楽しいとは言いがたい話をする羽目に陥ったことに、小さくため息をついてから、明日の朝までに報告書をまとめなければと、そこから立ち上がりかけた。

と、そのとき、夕飯時で、出払っていたはずの刑事部屋が遠慮がちに開いて、
「坂本君、ちょっといい? 」
と、既にここを出て行ったはずの長野が、そこから顔を覗かせていた。

俺は慌てて、ドアの傍に駆け寄り、お茶に手を伸ばしていた井ノ原は、ぶーっと口に含んだそれを噴出さんばかりの勢いで、立ち上がった。

そんな俺たちの様子に、若干物憂さげな表情をしてみせた長野は、それでもそのことを深く追求することなく、両手に…というか、頭自体が長野の腰までない背丈のせいで、長野の両足に纏わりついている二人の子供の肩に手を置きながら、俺に尋ねた。

「ねえ、お正月って…普通、どういうことするの? 」

長野の質問に、
「はぁ? 」
と、答えたのは、俺だけではなく、その隣にかけてきた井ノ原の声も、当然のごとく、重なった。

「この子達に、今日だけ俺がお母さんの代理で、お正月を一緒に過ごそうねっていったら、お正月ってなにするの? って聞かれてね、俺もわかんないから、聞きに来た」
「…お前、バカ? 
って、痛ってー!!」

もちろん、俺が言いたかったのは、”バカ”であって、後の”痛ってー”は、俺の本意ではなかった。

けど、俺にバカといわれた長野に反撃されたのではなく、なんと、その足に纏わりついていた、ガキに。
ああ、もう、こうなったら、そう呼ばせてもらおう。
その、ガキに、俺は思いっきり向こう脛を蹴り飛ばされて、先ほどの叫び声…と、相成ったのだ。

ここが県警本部でなきゃ、ぶっ殺すぞ、このガキ。
と、内心悪態をついて、蹴られた足を、なでさすった。

「大丈夫? 」
と、あまり気にしてない風に聞いてくる長野を無視して、俺を蹴ったガキを見下ろすと、全くもって嬉しくはないが、怖い怖いと評判の顔で、存分ににらみを利かせてやったのに、そのガキは、それに臆することなく、俺を見上げるようにして、睨み返してきた。

けど、くっついてる長野の足は、ぎゅっと握り締めていて。
それで、ああ、こいつは長野がいるから、こんなに虚勢を張っていられるんだな…と、漠然と思ったので、やり返すのだけは、辞めておいてやった。

一体何を言って、手なずけたのやら。
そういったら、なにもしてないよ、人聞き悪いこと、言わないで! って怒られそうだが、俺のことを親の敵(まあ、この場合、そういえなくもないが)とばかりの目で、
睨み付ける子供が頼っているのは、そのつかまっている長野の足だけ…といった状況に、嘆息して、話を元に戻した。

「で、正月がなんだって? 」
「だから、お正月って、どういうことすればいいんだった? 」
「んなこと、それぞれの家で多少差があるんだから、こいつらの家どおりに、やりゃあ、いいだろう? 」
「うん。だから、聞いたんだけど、お正月こそ稼ぎ時だって、毎年お母さんは仕事に出てるし、夜帰ってきたらそんなだから、疲れて寝るだけで、何をするのか、知らないっていうんだよね」

淡々と語る長野に、俺はその脚に芋虫のようにくっついている二人の子供に目をやってから、
「あっそう」
と、返事を返した。

今ここの留置所に拘留されている彼らの母親は、今日、くだんの神社でテキヤの手伝いをしていた。
で、自分は子供を初詣にも連れて行けず、せっせと額に汗して…かどうかは不明だが、…働いていたのに、目の前をのんびりと歩いていく参拝客の中に、養育費の支払いを延ばし伸ばしにしている元夫をみかけりゃ、そりゃ、文句の一つも言いたくなることだろう。

ちなみに、凶器の包丁は、彼女がその直前まで、焼きソバ用のキャベツを刻んでいたものだった。

どこの家にでも、家庭の事情とやらがある。

それに口を出すほど、俺は暇人じゃないので、俺は井ノ原を長野の前に押しやって、
「教えてやれ」
とだけいって、元のソファに戻った。

言われた井ノ原は、
「え、俺?? 」
とか呟きながらも、長野に話しかけた。

「じゃあさ、この子たちの家ルールじゃなくて、いいじゃん。
長野君流で」
「だから、それがわからないから、聞きにきたんだってば」
「は? ってか、わからないって、ナニ? どういう意味? 」
「あー。ごめん、わからないって言うか、忘れた」
「え? 」
「お正月に何するのかなんて、忘れちゃった」
「忘れたって、…長野君? 」
「だって、最後に御節なんてものを食べたのは、気が遠くなるくらい昔のことだし。家族そろっての正月ってのも、おんなじでしょ? 
そもそもウチは、父親がカメラマンなんて、親族一同からすると、胡散臭いことこの上ない仕事についてたから、両親が生きていた頃ですら、親戚一同正月に集まって…なんてことも、なかったし。
だから、忘れた…っていうか、元々あんまり知らないのかもね」

まるで、なんでもないことのように、さらっとそんなことを言ってのける長野を、井ノ原は目を白黒させながら、見つめていた。

見つめた先の長野は、俺からは見えないが、恐らく、何も浮かべていない、…凶悪なほど透明な瞳で、上目使いに、井ノ原を見返していることだろう。

ついでに、いつものごとく、小首を傾げてるのかもしれない。

それが、どんな力を持っているのか、無自覚なままに。

そして、そんな目をされている井ノ原は、当然のごとく、それに逆らうことは出来ないので、「あー」とか「うー」とか唸ったのち、どこかから紙袋とタッパを持ってきて、刑事課に飾られている鏡餅と、お神酒のセット、それに誰が生けてくれたのか、課長の机に置かれたなんてんの実を手早く紙袋にいれると、今度は、先ほど自分が突付いていた御節料理から、まだ箸のつけられていないところを上手にタッパに取り分けて、それも袋の中にしまった。

その動きが、妙に手早くて、それだけ出来るなら、普段からやれよ…と、思ったのは、今日だけ俺の胸にしまっておいてやることにした。

あの瞳で見つめられたら、なんでも用意したくなるんだろうなぁ。

なんて、のんきに思ったりして。
っていうか、そんだけ刑事課の備品(?)を強奪できる厚顔を、褒めてやるべきか?
これらがなくなった言い訳を、明日の朝までに井ノ原が無事考え付くかどうか…かなり難しいところだがな。

「これ、持って帰って。まず、鏡餅は、三宝に乗っけたこのままの形で、どっか、…そだね多分床の間なんて、アパートにはないと思うから、テレビの上にでも飾ればいいから。
あ、橙は、落ちちゃうけど、飾るときちゃんと上に乗っけてね。
ウラジロはここに。
で、鏡開き…っつって、この餅食べるのは、11日だよ? 
ちゃんとお母さん帰ってきたら、11日にやってね」

袋の中にしまわれたそれらに、手を突っ込んで説明している井ノ原を、俺はタバコをくゆらしながら、眺めていた。
こういうことは、俺より井ノ原の方が、向いている。

「それからお神酒は、未成年がお酒飲んじゃだめなんだけど、コレだけはOK。
でも、一口だけね。
飲んだら、今年一年、神様が守ってくれるから」
「飲まなかったから、だめだったのかな? 」

井ノ原がそう説明している横で、さっきまで黙りこくっていた、俺を蹴ったやつと反対のところに立っていた少年がそういった。
そのこの頭を、長野がそっと撫でてやると、くすぐったそうに、首を引っ込めて、嬉しそうに笑った。

「あ、けど、長野君はやめてた方が、いいかも? 
コレ、結構度数高いから」
「わかった」
「で、飲んだら、これもテーブルの上とかでいいから、飾っておいて。
正月三が日にだれかお客さんが来たら、出してあげてね」

井ノ原がそう言うと、子供たちは素直にこくこくと頷いた。

「で、コレ。
この赤い実はね、南天っていって、不浄を清めるっていう意味があるんだ」
「不浄? 」

子供たちが、首をひねって、問い返した。

「あ、わかんないよね。
えーっと、悪いことから守ってくれるって感じかな? 
だから、おうちの鬼門に飾っておいて。
って、鬼門がわからないか。
まあ、いいや。
とりあえず、目のつくところに、飾っておいてくれたら」

井ノ原の言に、聞いていた三人は、素直にうんうんと頷いていた。
つまり、長野は、お神酒は知っていても、南天のことは知らなかったってことだろう。

「そんで最後コレ。
おせち料理ね。
食材一つ一つにいわれがちゃんとあるんだけど、ごめんね、手をつけないで残ってるのしか入れられなかったから、雰囲気だけ楽しんで」
「…十分だよ。
ありがと」

長野の言葉に、井ノ原はニッと彼の人好きする笑顔を覗かせた。

そして、その紙袋を大事そうに持った長野は、今度こそ、
「じゃあ、かえるね」
と、部屋を出ようとしたが、その腕を井ノ原が捕まえた。

「ちょっとまった! 一番大事なの、忘れてる」
「なに? 」

井ノ原は、俺を跨ぎ超えて、ソファの向こうにあるラックに無造作に投げられていた、かなりくたびれた感のある箱を取って、長野の前に引き返した。

「百人一首。
…やっぱ正月位は、コレしないと。
俺たち日本人ですから」

そういって、井ノ原が笑うと、つられたように、あとの三人も笑い出した。

「といっても、俺らは坊主めくりしかしないんだけどね」
と付け足した井ノ原に、
「井ノ原って、すごいね。
…ホント、ありがとう」
といった長野は、今度こそ、俺と井ノ原にひらひらと手を振って、部屋を出て行った。



ようやく落ち着きを取り戻した室内で、閉められた扉を見ながら、ぼうっとつったっていた井ノ原が、首だけでクルンと振り返って、俺を見た。

「あれも、無意識? 」

俺は、その困惑した面持ちのまま、俺に尋ねてくる井ノ原のその顔を見ただけで、彼が言いたいことを瞬時に悟ってしまい、微妙な空笑いを返すことしか、できなかった。

それを見て取った井ノ原は、大きく息を吐き、肩を落とすと、今年最初のボヤキを、口にした。


「ってか、一番すごいのは、長野君だって。
誰かあの人に言ってくんねぇかな? 」




そう。
長野の目には、俺たち凡人にはない、不思議な力がある。
それは、本人が自覚していることと、自覚していないことと。


自覚している力は、長野を助けもするが、壊しもする。
それがわかっているから、本人が意識的に、それを暴走させないように、セーブしている。


けれど、自覚していない力の方が、時折、長野以外の人間に対して、何よりもやっかいであることを、長野本人は知らない。


無自覚なままに披露されるその眼力で、一体何人の人間がものの見事にコワサレているのか。
あまり、知りたくはない気がした。


実際、今も目の前に、その被害をこうむった人間が、約一名。
何でも言われるがままに動いてしまった、自分の中の矛盾と、葛藤し続けている。


なので、俺は出来るだけ、その被害を受けないよう、今年一年も気を引き締めていこうと。
それを、新年の目標に掲げて、俺は、長野のせいで歯抜けにされた御節を、つつき始めた。

そして内心、どうせ来年の抱負も、それなんじゃねぇか?
と、嫌な予感に蓋をするように、魔よけの意味も込められた、赤々とした海老を、自分の口に放り込んだ。



こんなもんで、魔よけになりゃ、毎日でも食ってやるけどな。
なんて罰当たりなことを、心の中で呟いたことは、あんたの胸に収めといてくれ。

なんせ今日は、1月1日なんだからな。

 

 

++++++ END +++++

 

といわけで、1月1日小説でした。
えと、fiendish eyeというのは、悪魔のような瞳っていうか、そういうあまりよくない意味っていうか、表現なんですけど、直訳した場合がそういう意味であって、ニュアンスで捕らえると、成瀬が書いた小説の中で語られてるような瞳のことだったりします(笑)

年明け早々ですから、くすりと笑っていただけましたら、幸いです。

そして、お約束どおり、3が日中には、かんばってSP小説「Keeping the faith」とを更新したいです~。

ってか、やりますよ~。コレくらいは護らないとね!
では、今年一年も、よろしくお願いいたします☆

<追伸>
書きそびれていましたが、コメントトラックバックともに認証後掲載方式をとっておりますので、じかに反映されませんのでご了承ください。
(書いてなかったから質問受けました、コメントかけないって。
すみません、認証後に掲載されるんで、直後に反映されなかったのです。
と、ご質問いただいた方にはお返事とともにお知らせしたのですが、ここに書き忘れてました、ゆるされて。。。)


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